- 個人間融資では「借金のカタ」を要求されるケースも多い
- 「借金のカタ」として無理な要求をすることは違法である可能性が高い
- 「借金のカタ」として差し出したものは返還請求できる可能性がある
- 「借金のカタ」を差し出さなくても借金問題を解決できる方法がある
個人間におけるお金の貸し借りでは、返済が厳しくなると貸主から「借金のカタ」を要求されることがあります。
車や貴金属など換金できるものであればまだよいですが、場合によってはマイホームなどの不動産の名義変更や、悪質なケースでは配偶者や恋人、姉妹などを「カタ」として求められるケースもあります。
この記事では、個人間融資で「借金のカタ」を要求されるケースの実態や、「借金のカタ」の要求の違法性、要求されたときの対処法などについて、わかりやすく解説します。
「借金のカタ」とは?
「借金のカタ」とは、一般的に、借りたお金を返せないときに、代わりに差し出すもののことを意味します。
金融機関からお金を借りるときに、自宅に抵当権を設定したり、保証人を立てたりなどして、担保を差し出すことも、「借金のカタ」の一種です。
それに対して、個人間の借金の場合は、融資の際に担保を差し出すのではなく、返済ができなくなった時点で無理な要求をされることが多いのが特徴的です。
個人間融資では、借金の「カタをつける」、つまり返済できないことに対する「落とし前をつける」という意味合いが強いと言えます。
実際にある「借金のカタ」トラブル事例
ここでは、個人間融資で借金のカタを要求された事例のなかから、よくあるケースをいくつかご紹介します。
不動産の所有権移転を要求されるケース
借金のカタとして、マイホームなどの不動産の所有権移転を要求されることは多いです。借入額が大きいほど高価な「カタ」を要求される傾向にあり、借主が不動産を所有している場合には、その所有権の譲渡を要求されるのです。
金融機関からの借金を返せない場合でも、最終的に不動産を差し押さえられ、競売にかけられるなどして所有権を失うことはあります。
しかし、この場合は売却代金から未返済の借金や遅延損害金などが差し引かれ、残額があれば元の所有者が受け取ることができます。
それに対して個人間融資では、借入残高にかかわらず不動産を奪われ、精算もされないケースが多いです。貸主に不動産の権利証を渡すと、正規の法的手続きを踏まずに悪用されることも多いので、注意しなければなりません。
車、貴金属、ブランド品などを要求されるケース
借入残高が数十万円程度でも、借金のカタとして車や貴金属、ブランド品などの高価なものを要求されるケースが多々あります。
この場合も、カタとして差し出したものの売却代金が借入残高より多かったとしても、精算はされないことが多いです。
逆に、売却代金が借入残高より少なかった場合は、さらに別のカタを要求されてしまいます。また、貸主が金目になりそうなものは、勝手に持ちさるケースもよくあります。
配偶者や家族、恋人を「カタ」として求められるケース
悪質なケースでは、借主の配偶者や家族、恋人などの「人」を、借金のカタとして差し出すように要求してくるケースもあります。
貸主は、借金の減免に応じることと引き換えに、カタとして差し出された人に対して、性的な行為を強要することが多いです。これらの女性を風俗店で働かせたり、その他の仕事で強制的に働かせたりして、お金を徴収するケースもよくあります。
このような行為は人道的に許されるものではありませんが、借主側には借りたお金を返せないという負い目があるため、強く迫られると応じてしまうこともよくあります。
「借金のカタ」の要求は違法?
借金のカタを要求することは、合法なケースもあれば違法なケースもあります。個人間融資では違法なケースも多いため、どのような行為が違法となるのかをみていきましょう。
提案するだけなら基本的に合法
貸主から借主に対して、借金のカタを差し出すように提案するだけなら、基本的には合法です。なぜなら、契約は当事者双方が合意すれば自由にできるからです。
金銭に代えて別の物を交付することで借金の返済に充てることを代物弁済といいますが、貸主から代物弁済を提案するのは自由ですし、借主がこれに応じれば、代物弁済の契約が有効に成立します。
したがって、不動産や車、その他の財物を借金のカタとして求められた場合は、そのことだけで違法となるわけではありません。
ただし、性行為を強要する目的で配偶者や家族、恋人などを借金のカタとして求める行為は、民法90条の公序良俗(こうじょりょうぞく)に反するため、その契約は無効になると考えられます。
強要すると違法
貸主からの要求が「提案」にとどまらず、「強要」に該当する場合は、違法となる可能性が高いです。
例えば、100万円の借金の返済に代えて、マイホームの所有権を移転することを要求されたとしましょう。
この場合、貸主が借主の弱みにつけ込んで脅し、無理やりに合意させたとすれば、代物弁済の契約が成立しますが、民法上の強迫を理由として取り消すことができます。
また、状況によっては、貸主の要求が刑法上の脅迫罪や恐喝罪、強要罪、暴行罪、傷害罪などの犯罪に該当することもあります。
出資法違反や貸金業法違反となることも
貸主から高額の利息を要求された場合には、出資法違反となることがあります。
個人間のお金の貸し借りでも利息を付けることはできますが、その利率が年109.5%を超えると出資法違反となり、貸主が刑事罰の対象となります。
したがって、100万円の借金の返済に代えて、時価200万円の車の引き渡しを要求されて応じてしまい、差額が精算されなかったとすれば、法外な利息を支払わされたことになり、出資法違反に該当する可能性が高いといえるでしょう。
また、個人でも不特定の相手にお金を貸したり、反復継続してお金を貸したりすることは「貸金業」に当たるため、貸金業者としての登録をしなければなりません。無登録で貸金業を営んだ者は、貸金業法違反として刑事罰の対象となります。
インターネット上の掲示板やSNSを介して個人間融資に応じる相手は、貸金業法違反や出資法違反を犯していることが非常に多いので、注意が必要です。
「借金のカタ」として差し出したものの返還請求は可能?
有効に成立した代物弁済契約に基づき「借金のカタ」を差し出した場合は、その返還を請求することはできません。
それでは、「借金のカタ」の要求が違法な場合には、差し出したものの返還を請求できるのでしょうか。
差し出す契約が無効なら返還請求できる
差し出す契約が無効な場合は、代物弁済契約がなかったことになりますので、差し出したものの返還を請求できます。
配偶者や家族、恋人を借金のカタとして差し出す約束をした場合は、公序良俗違反として無効なので、貸主からの性行為などの要求に応じる必要はありません。
不動産や車、その他の財物を差し出す契約を、民法上の強迫を理由として取り消した場合も、契約はなかったことになりますので、差し出したものを返還請求することが可能です。
借金の返済義務が残るかはケースバイケース
返還請求が認められた場合に、借金の返済義務が残るかどうかは、ケースバイケースです。
理論上は、あくまでも代物弁済の契約がなかったことになるだけであり、借金の契約は有効なままですので、借金の返済義務は残ることになります。
しかし、借金のカタとして配偶者や家族、恋人などを差し出し、既に性行為の相手をさせられたような場合には、借金の返済義務は消滅すると考えられます。
なぜなら、このような場合に代物弁済契約をなかったことにして、貸主からの返済請求権を認めることは法の精神に反するため、不法原因給付の考え方により、貸主の返済請求権は否定されると考えられるからです。
なお、出資法の上限金利(年109.5%)を著しく超える法外な利息を要求されている場合は、そもそも貸金契約自体が公序良俗違反として無効となるため、返済義務はありません。
「借金のカタ」を要求されたときの対処法
個人間融資で借金のカタを要求されたときには、以下のように対処していきましょう。
貸主と話し合う
可能であれば、貸主との話し合いによって解決することが望ましいです。
借りたお金は返さなければなりませんが(法外な利息を要求されている場合は除きます。)、貸主からの代物弁済の提案に応じるかどうかは借主の自由です。つまり、借金のカタを差し出す要求に応じる義務はありません。
すぐに返せない借金については、返済期限の延期や分割払いなどを提案して、誠実に話し合うことを検討してみましょう。
違法な要求の場合は警察に相談
ただし、脅迫的に借金のカタを要求してくる相手と話し合うことは危険です。穏便な話し合いができない相手に対処するためには、専門家の力を借りるべきです。
強迫などの違法な手段で要求された場合には、警察に通報した方がよいでしょう。執拗に無理な要求を受けている場合も、警察署の生活安全課に相談してみましょう。
脅迫罪などの犯罪が成立し、実害が生じている場合には、警察が介入することで貸主からの要求が収まることも期待できます。
ただし、実害が生じていなかったり、被害が軽微であったりした場合には、「民事不介入の原則」により、警察が動いてくれない可能性が高いため、根本的な解決には至らないことも多いです。
警察への相談は、緊急的な対処法として考えておくとよいでしょう。
根本的に解決するには弁護士・司法書士に相談
個人間借金のトラブルを根本的に解決するためには、弁護士のような法律の専門家の力を借りるのがおすすめです。
弁護士は、民事・刑事を問わず、依頼者の味方として迅速に、解決に向けて動いてくれます。
弁護士が「借金のカタ」を要求する相手に対してできること
弁護士に依頼して「借金のカタ」問題を解決する流れは、以下のとおりです。
代理人として貸主と交渉
依頼を受けた弁護士は、代理人として貸主と交渉し、無理な要求をやめるように説得を図ってくれます。
貸主に対しては、弁護士から「すべての連絡は当事務所へ」と通知してもらえます。弁護士が貸主との交渉役を全面的に引き受けてくれるので、自分で貸主と直接やりとりする必要は一切なくなります。
このように、弁護士を間に入れることにより、平穏な生活をすぐに取り戻すことができるのです。
返還請求や刑事告訴などの法的措置
借金のカタを差し出す契約が無効な場合や、代物弁済契約を取り消した場合でも、既に物を引き渡してしまった後では、貸主が返還に応じないこともあります。
そんなときも、弁護士が貸主と返還の交渉をしてくれますし、それでも取り戻せない場合には裁判(返還請求訴訟)などの法的手続きを速やかに進めてもらえます。
また、貸主からの脅迫や恐喝、強要、暴行、傷害などで被害を受けていて、その処罰を求めたい場合には、刑事告訴の手続きを弁護士にサポートしてもらうことも可能です。
債務整理による借金問題の解決
貸金契約が有効な場合には、残った借金をどうするかが問題となります。どうしても返済できない場合には、弁護士に債務整理を依頼することによって解決を図ることも可能です。
債務整理とは、法律に則った正当な手続きにより借金を減免することが可能な制度のことです。個人間の借金も、債務整理の対象となります。
具体的な手続きとしては、任意整理・個人再生・自己破産の3種類があります。
任意整理では債権者との直接交渉が必要であり、個人の債権者との交渉は難航することも多いです。しかし、弁護士が専門家としての立場で交渉することにより、支払い可能な条件での和解が成立しやすくなります。
借金額が大きい場合には、個人再生や自己破産が視野に入るでしょう。個人再生と自己破産では、裁判所において法律の規定に従って手続きが進められます。
そのため、一定の条件を満たす場合には、債権者の意向にかかわらず強制的に借金が減免されます。他にも借金を抱えている場合には、債務整理で一挙に解決を図ることも可能です。
借金の返済が厳しいときには、早めに弁護士に相談し、最適な解決方法についてのアドバイスを受けるとよいでしょう。
まとめ
借金のカタを差し出すことは、任意であれば何の問題もありません。
しかし、個人間融資で借金のカタを求められるケースでは、差し出すものの内容の面でも、要求行為の手段の面でも、無理な要求を受けることが多いのが実情です。
そんな貸主に対して1人で対処しようとすれば、お金を返せないという弱みにつけ込まれてしまい、深刻な被害を受けることにもなりかねません。
貸主から借金のカタを要求されて困ったときは、無理をする必要もありませんし、泣き寝入りする必要もありません、弁護士の力を借りて、最適な方法で借金問題を解決してしまいましょう。

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