- 借用書は、あとからでも作成できる
- あとから過大な請求を回避するには債務承認弁済契約書の作成が有効
- 債務承認弁済契約書の作成時には交渉で債務の内容を変更することも可能
- 債務承認弁済契約書に清算条項を入れなければ過大な請求を受けるおそれが残る
友人や知人など個人間の借金では、借用書を作成せずに貸し借りをすることも多いものです。
しかし、約束した内容を書面にしておかなければ、後に貸主から過大な請求を受けたりすることにもなりかねません。そこで、借用書をあとからでも作成できるのかが気になるのではないでしょうか。
結論をいいますと、あとから借用書を作成することも可能です。ただし、貸主とのトラブルを回避するためには、一般的な借用書ではなく「債務承認弁済契約書」を作成することをおすすめします。
この記事では、債務承認弁済契約書を作成すべきケースや記載事項、作成時の注意点などについて、わかりやすく解説します。
借用書は、あとからでも作成できる?
借入時に借用書を作成しなかった場合は、あとから作成することもできます。
例えば、4月1日に借り入れをして5月1日に借用書を作成する場合、
「4月1日に金○○万円をお借りしました。○月○日にまでに必ず、同額をお返しします」
という内容の借用書を5月1日付で作成することには何ら問題がありません。
一方、「本日、金○○万円をお借りしました。○月○日にまでに必ず、同額をお返しします」という内容の借用書を5月1日付で作成した場合は、事実とは異なる内容が記載されています。
借入額や当事者が約束した返済条件が正しく記載されていれば、特に支障はないといえます。しかし、借り入れと借用書の作成との間にタイムラグがあれば、借入額や返済条件に関して、当事者の認識に食い違いが生じることも少なくありません。
その場合、借主が一方的に借用書を作成して貸主に差し入れても、貸主が納得しない可能性があることに注意が必要です。
借金をした後に作成できる4種類の書面とは
当初は口約束だけで借金をした場合に、あとから作成できる書面としては次の4種類が挙げられます。
- 借用書
- 金銭消費貸借契約書
- 債務承認弁済契約書
- 準消費貸借契約書
まずは、それぞれの書面の意味を確認しておきましょう。
借用書
借用書とは、借主がお金を借りた事実を認めるとともに、返済することを約束するために、貸主に交付する書面のことです。
借主は、借用書に記載した金額を、記載したとおりの条件で返済する義務を負います。
借用書には、借主のみが署名・押印します。通常は原本1通のみを作成し、貸主がその原本を保管します。
金銭消費貸借契約書
金銭消費貸借契約書とは、お金を貸し借りする際に当事者が合意(契約)した内容を記載した書面のことです。
借用書の場合と同様、借主は、金銭消費貸借契約書に記載された金額を、記載されたとおりの条件で返済する義務を負います。
このように、借用書と金銭消費貸借契約書の法的効力は同じですが、形式の面で両者は異なります。
金銭消費貸借契約書には、借用書とは異なり、貸主・借主の双方が署名・押印します。原本を2通作成し、各当事者が1通ずつを保管するという違いもあります。
債務承認弁済契約書
債務承認弁済契約書とは、借主が借金の返済義務を負うことを認める(承認する)とともに、その返済条件について当事者が合意(契約)した内容を記載した契約書のことです。
借用書や金銭消費貸借契約書との違いは、必ずしも実際に借りた金額が記載されるとは限らず、あくまでも債務者(借主)が承認した金額が記載されるという点にあります。
実際には、貸主と借主との話し合いで「残りの債務は○○円ですね」と確認し合い、その金額を記載することになります。
債務承認弁済契約書も契約書ですので、貸主・借主の双方が署名・押印して原本2通を作成し、各当事者が1通ずつを保管します。
準消費貸借契約書
準消費貸借契約書とは、お金の貸し借りに限らず金銭の支払い等の義務がある場合に、その目的物を貸し借りした形にして清算するために作成する契約書のことです。
例えば、Aさん(貸主)とBさん(借主)との間で何度もお金の貸し借りが行われ、現時点未返済の借金が100万円あるとします。
このとき、100万円を新たに借りたことにして、その代わりに今までの借金をなかったことにする契約が「準消費貸借契約」です。
そして、今後返済すべき金額や、その返済方法を新たに取り決め、その内容を記載した契約書が「準消費貸借契約書」に当たります。
準消費貸借契約書も契約書ですので、貸主・借主の双方が署名・押印して原本2通を作成し、各当事者が1通ずつを保管します。
あとから作成する場合は債務承認弁済契約書が良い理由
借金をしてから、ある程度の期間が経過し、返済額・返済方法がよくわからなくなった場合や、当事者の意見が食い違うようになった場合は、債務承認弁済契約書を作成すべきです。
なぜなら、債務承認弁済契約書は、返済額や返済方法を新たに取り決めて作成することが可能だからです。
借用書および金銭消費貸借契約書には、あくまでも借入時に合意した内容を記載する必要があります。それが難しい場合は、当事者の協議によって新たに合意を形成し、その内容を債務承認弁済契約書に記載するのが良いでしょう。
もっとも、返済額や返済方法について当事者間に争いがない場合は、借用書または金銭消費貸借契約書を作成しても構いません。
一方、当事者間で継続的にお金の貸し借りをしていて、それまでの借金をひとまとめにしたい場合は、準消費貸借契約書を作成すべきです。
実際には書面のタイトルは重要ではありませんが、「返済額と返済条件について納得のいく合意内容」を記載した書面を作成すべきことに注意しましょう。
債務承認弁済契約書を作成すべきケース
あとから書面を作成する場合には債務承認弁済契約書の作成が適していることが多いですが、どんな場合でも債務承認弁済契約書を作成すれば良いというわけではありません。
ここでは、債務承認弁済契約書を作成すべきケースについて、さらに詳しくご説明します。
借入時に借用書(金銭消費貸借契約書)を作成しなかった
借り入れと同時ではなくても、速やかに書面を作成できる場合は、借用書または金銭消費貸借契約書でも構いません。
実際のところ、口約束で借り入れをした翌日や数日後に、「きちんと書面を作成しておきましょう」ということで借用書または金銭消費貸借契約書を作成することもよくあります。
しかし、以下の場合には、当事者間の協議によって改めて合意を形成する必要があるため、債務承認弁済契約書を作成すべきです。
- 借入額(返済額)について争いがある
- 返済条件について争いがある
- 返済条件を変更したい
借入額(返済額)について争いがある
個人間で口約束の借金をすると、借入額や今後の返済額について、次のようなトラブルが生じがちです。
- 5万円しか借りていないのに、貸主は「10万円貸した」と主張する
- 30万円を借りた後に10万円返したのに、貸主は返済の事実を認めず「30万円返せ」という
通帳の履歴や預かり証、領収書などの証拠で借入額・返済額を証明できればよいのですが、有力な証拠が残っていないことも多いでしょう。
このような場合に、裁判沙汰を回避するためには当事者間で協議を行い、双方が納得のいく借入額・返済額を取り決めて、債務承認弁済契約書を作成するのがおすすめです。
返済条件について争いがある
口約束の借金では、返済条件についても次のような争いが生じがちです。
- 返済は3ヶ月後でよいと言われていたのに、「今月中に返せ」と迫られた
- 分割払いの約束をしていたのに「一括で返してほしい」と言われた
- 利息の約束はしていなかったのに、利息を要求された
- 返済が少し遅れただけで、高額の遅延損害金を要求された
返済条件については「言った・言わない」のトラブルが起こりやすいですし、記憶違いによって当事者の意見が食い違うこともあります。
このように返済条件について争いがある場合も、当事者の話し合いによって改めて取り決めを行い、債務承認弁済契約書を作成した方がよいでしょう。
返済条件を変更したい
当事者間に争いがない場合でも、一方が次のように「返済条件を変更したい」と考える場合は、債務承認弁済契約書の作成が有効です。
- 返済期限を延期してほしい
- 一括返済の約束だったが、分割払いにしてほしい
- 毎月の返済額を減らしてほしい
- 利息の利率を下げてほしい
いったん約束した内容を一方的に変更することはできませんが、協議によって変更に応じてもらえた場合は、債務承認弁済契約書を作成しておきましょう。
債務承認弁済契約書を作成するメリット
債務承認弁済契約書を作成することで、以下のメリットが得られます。
債務の内容が明確になる
債務承認弁済契約書を作成すれば、今後の返済額や返済方法が明確になります。
借主としては、いつまでにいくらを返せばよいのかが明確になることで、安心できるようになることでしょう。「言った・言わない」のトラブルを回避できることは、貸主にとってもメリットとなります。
過大な要求を拒否しやすくなる
口約束の借金では、貸主が次のように過大な要求をしてくることが少なくありません。
- 借りた以上の金額の返済を迫る
- 約束の期限よりも早期の返済を迫る
- 利息の約束はしていないのに利息の支払いを要求する
貸主の思い違いによって要求してくることもあれば、借用書や金銭消費貸借契約書がないのをよいことに、悪意を持って過大な要求することもあります。
いずれにしても、債務承認弁済契約書を交わしていれば、約束した内容を超える過大な要求を拒否しやすくなります。
返済額や返済方法を決め直せる
債務承認弁済契約書を作成する際には当事者間で協議を行うので、いったん取り決めた返済額や返済方法を決め直せる可能性もあります。
返済が苦しくなった場合は無断で滞納せず、協議によって今後の返済額や返済方法を決め直し、債務承認弁済契約書を作成することを目指しましょう。
借用書や金銭消費貸借契約書を作成した場合でも、貸主が協議に応じてくれるのであれば、債務承認弁済契約書によって返済額や返済方法を決め直すことが可能です。
債務承認弁済契約書に記載すべき事項
債務承認弁済契約書に記載すべき事項は、以下のとおりです。
書き漏らした事項があると思わぬ不利益が生じるおそれもあるので、ひとつずつ確認して書面を作成しましょう。
返済額
今後返済すべき金額は、明確に取り決めて記載しましょう。
「本日現在、未払い借入金○○円の債務を負っていることを承認する」と、債務者が承認する旨の文言も欠かせません。
返済方法
返済方法については、以下の事項を取り決めて記載しましょう。
- 一括払いか分割払いか
- 分割払いの場合は返済期間と、毎月の返済日・返済額
- 手渡しで支払うのか、振り込みで支払うのか
- 振り込みで支払う場合は口座の情報と、振込手数料をどちらが負担するのか(借主負担が一般的)
返済期限
一括払いの場合も、返済期限の取り決めは重要です。
返済期限を取り決めていない場合、法律上は、いつでも返済を請求される可能性があるので注意しましょう。
返済を請求されたら、「相当の期間」(一般的には1週間程度)が経過するまでに全額を返済しなければなりません。
利息の有無と利率
利息を支払う約束をする場合は、利率を明確に取り決めて記載しましょう。個人間の借金でも、利率は利息制限法の範囲内(残債務の額に応じて年15~20%)でなければならないことにご注意ください。
利息の取り決めを記載しなかった場合は、利息を支払う必要はありません。しかし、後日のトラブルを回避するためには、当事者間で「利息なし」の旨を確認した上で、できる限り債務承認弁済契約書にも記載しておいた方がよいです。
遅延損害金の有無と利率
遅延損害金とは、返済が遅れた場合に借主が支払うべき賠償金のことです。遅延損害金の約束をする場合も、利率を明確に取り決めて記載しましょう。
なお、遅延損害金の利率の上限は、利息制限法により年29.2%までとされています。
遅延損害金の取り決めをしなかった場合でも、貸主は民法上の法定利率(2020年4月1日以降の契約では年3%)に従って請求することが可能です。
期限の利益喪失条項
分割払いの取り決めをする場合は、期限の利益喪失条項の内容に注意が必要です。
期限の利益喪失条項とは、一定の事由が生じると分割払いが認められなくなり、その時点の残債務をただちに一括で支払わなければならないことを取り決める条項のことです。
一般的には、分割金の支払いが2回以上遅れた場合に一括払いとすることが多いですが、何回の滞納で一括払いとするかは当事者の協議次第です。1回の滞納で一括払いとなれば過酷な結果となるおそれがあるので、十分に話し合って取り決めましょう。
なお、期限の利益喪失条項を取り決めなかった場合は、滞納が続いても分割払いが認められなくなることはありません。
清算条項
清算条項とは、その契約書に記載した内容の他には、お互いに何らの金利も義務も有しないことを確認し合う条項のことです。
債務承認弁済契約書には、借主が現時点で抱えている残債務の金額を記載しますが、「この他に債務はない」ということを明確に記載しておかなければ、貸主から追加で支払いを請求されるおそれが残ります。
そのため、借主にとって、債務承認弁済契約書に清算条項を記載することは必要不可欠です。
当事者双方の署名・押印
最後に、当事者双方が署名・押印します。
自筆の署名でなくても、パソコンでの印字やゴム版などによる記名でも構いません。押印は実印を使用する必要はなく、認め印でも有効です。
債務承認弁済契約書を作成するときの注意点
借主としては、債務承認弁済契約書を作成する際に、以下の3点に注意することが重要です。
相手との交渉を要することが多い
債務承認弁済契約書には、当事者双方が納得して合意した内容を記載します。
お互いの意見が食い違う場合には、双方が譲り合って妥当な内容を取り決めることが望ましいです。そのため、納得のいく取り決めを行うためには貸主との交渉を要することが多いです。
貸主が理不尽な言い分に固執して譲歩しない場合は、民事調停や民事訴訟などの法的手段を検討した方がよいこともあります。
清算条項が非常に重要
債務承認弁済契約書に清算条項を記載しておかなければ、貸主から別途請求を受けた場合に、支払い義務がないことを書面だけでは証明できないおそれがあります。
貸主からの過大要求を回避するためには、清算条項が非常に重要です。文面の作成を貸主に任せると清算条項を記載してもらえない可能性があるので、注意しましょう。
公正証書にすると差押えをされやすくなる
債務承認弁済契約書を公正証書として作成した場合には、差し押さえをされやすくなることに注意が必要です。
公正証書に強制執行認諾文言を付した場合、その公正証書は確定した判決と同一の効力を有します。そのため、返済が遅れた場合には、貸主は裁判をすることなく、強制進行手続きによって借主の給料や預貯金口座を差し押さえることが可能となります。
貸主から求められて公正証書を作成した場合は、くれぐれも返済が遅れないように注意しましょう。
借用書や債務承認弁済契約書をあとから作るときは弁護士へ相談を
個人間で借り入れをして、あとから借用者や債務承認弁済契約書を作る際には、弁護士へ相談することを強くおすすめします。法律の専門家によるサポートを受けることで、以下のメリットが得られます。
- 4種類の書面のうち、どれを作成すればよいかを判断してもらえる
- 文面の作成を任せられるので、正確で漏れのない書面を作成できる
- 相手と論理的に交渉してくれるので、納得のいく条件での合意が期待できる
- 弁護士名義で書面に署名・押印してもらうことで、相手が約束を守ってくれる(過大な要求をしない)効果が高まる
当事者間で意見が食い違う場合には、協議をしても双方が譲らず、感情的なトラブルに発展することも多いものです。そんなときは、早めに弁護士を通じて適切な解決図りましょう。
まとめ
借用書をあとから作ることも可能ですが、借り入れからある程度の期間が経過した場合は、債務承認弁済契約書の作成をおすすめします。
特に、返済額や返済条件がよくわからなくなったり、当事者間で意見が食い違ったりした場合は、債務承認弁済契約書を作成することが重要です。
とはいえ、貸主との協議がスムーズに進むとは限りませんし、正確で漏れのない書面を作成するためには専門的な知識も要求されます。
あとから書面を作成したいと思ったときは、一人で悩ます弁護士の力を借りて、適切な書面を作成しましょう。
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