- 口約束でも契約が成立するため借金の返済義務がある
- 証拠がなくても踏み倒すことはできない
- 時効が成立すれば返済不要となる
- 返済できないときは債務整理で解決できる
個人間融資では、契約書や借用書などを作成せず、返済期限などを口約束するだけでお金の貸し借りをすることも多いものです。
しかし、口約束の借金でも法的な返済義務があり、踏み倒すことはできません。踏み倒そうとすると、強引な請求や感情的なトラブルに発展する可能性が高いので、注意が必要です。
そこで今回は、口約束の借金にも返済義務がある理由や、厳しく請求されたときの対処法、払えないときの解決方法などについて、わかりやすく解説します。
口約束の借金は踏み倒せない
口約束の借金は、踏み倒すことができません。その理由は以下のとおりです。
- 口約束の借金でも法的な返済義務がある
- 契約書や借用書がなくても裁判を起こせる
- 個人の貸主も裁判を起こすことがある
- 個人の貸主は感情的になって厳しい取り立てを行うことが多い
貸金業者の場合、融資ビジネスとして貸付けを行っているため、必ず貸付時に契約書を作成します。
お金が戻ってこない可能性があることも想定した上で利息を請求していますし、実際に貸し金を回収できなくても、法律で許された範囲内で取り立てを行います。
そのため、貸金業者からの借金については、やり方によっては踏み倒せることもあります。
しかし、個人の貸主にとって貸したお金が返ってこないことは一大事なので、契約書などがなくても、借主が返済しなければ感情的に取り立てをおこないます。
貸金業者とは異なり、取り立てのルールが法律で規制されているわけではないので、厳しい取り立てが行われることもよくあります。
借入金額が少額の場合は貸主が諦めることもあるかもしれませんが、貸主からの信頼を失い、人間関係が損なわれることは避けられないでしょう。
約束どおりに返済しなければトラブルになるという意味で、口約束の借金は踏み倒せないと考えておく必要があります。
口約束の借金でも返済義務がある理由
口約束の借金でも返済義務がある理由について、法的にご説明します。
法律上は口約束でも契約が成立
お金の貸し借りのことを法律上は「金銭消費貸借契約」といい、口約束の借金でもこの契約が成立します。
民法第587条で定められているとおり、後に同額を返済する約束をして貸主からお金を受け取れば、その時点で金銭消費貸借契約が成立します。
したがって、返済の約束が口約束だけであっても、実際にお金を借りた以上は金銭消費貸借契約に基づき返済義務が生じるのです。
第五百八十七条
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
【引用】:民法
借用書は証拠の一つにすぎない
契約書や借用書は金銭消費貸借契約の成立要件ではなく、お金の貸し借りをしたことの証拠に過ぎません。
貸金業者が貸付の際に必ず契約書を作成するのは、証拠を残しておくためです。裁判をするためには証拠が必要であり、貸金業者は裁判でお金を確実に回収するために、契約書を作成するのです。
なお、借金の証拠は契約書や借用書だけではありません。
次のような証拠を貸主が裁判で提出すれば、裁判所から返済を命じられる可能性があります。
- 通帳などの送金履歴
- メールやLINEのやりとりで借金した事実がわかるもの
- 借金に関する会話を録音したデータ
つまり、契約書や借用書は借金の有力な証拠の一つにすぎないということです。
他の証拠で裁判を起こされる可能性が十分にあるのですから、契約書や借用書がないからといって借金を踏み倒すことはできません。
口約束の借金も時効が成立すれば返済不要
口約束の借金にも時効制度が適用されますので、消滅時効が成立すれば返済不要となります。借金の踏み倒しはできなくても、消滅時効によって正当に返済を拒否できるということです。
借金の消滅時効については、以下の点に注意が必要です。
借金の時効期間
個人間の借金の時効期間は、借入の時期によって次のように異なります。
- 2020年3月31日以前に借りた場合…10年
- 2020年4月1日以降に借りた場合…5年
以前は「個人間の借金の時効期間は10年」とだけ覚えておけばよかったのですが、2020年4月1日から改正民法が施行されました。
そのため、2020年4月1日以降に個人から借りた借金の消滅時効期間が5年に短縮されたことにご注意ください。
時効期間の起算日
借金の消滅時効期間が進行し始める時期のことを「時効期間の起算日」といいます。
時効期間の起算日は、返済期限の約束があるかどうかによって次のように異なります。
- 返済期限の約束がある場合…返済期限の翌日から
- 返済期限の約束がない場合…借金した日の翌日から
例えば、2013年4月30日に個人間で借金し、返済期限の約束をしていない場合は、2013年5月1日から消滅時効期間が進行し始めます。
そして、10年後の2023年4月30日が過ぎると消滅時効が成立するのです。
時効が成立したら援用が必要
消滅時効期間が成立しても、それだけで自動的に借金が消滅するわけではありません。
借金を消滅させるためには、「時効の援用」を行う必要があります。
時効の援用とは、時効によって利益を受ける側の人が相手方に対して、「この借金は消滅時効が成立したので支払いません」という意思表示をすることです。
この意思表示は口頭で行っても有効ですが、証拠を残さなければ相手方からの請求が止まらない可能性があります。
そのため、一般的には内容証明郵便で「消滅時効援用通知書」を作成し、相手方へ送付します。
時効が成立しないケースとは
時効期間が経過しても、次のようなケースでは消滅時効が成立しないことに注意が必要です。
- 1円でも返済をした
- 返済の約束をした
- 返済の猶予を求めた
- 裁判を起こされた
これらのケースでは、その時点までに進行していた時効期間がリセットされ、新たに5年(裁判が確定した場合は10年)の時効期間が経過しなければ、消滅時効は成立しません。
このことを「時効の更新」といいます。
貸主から取り立てを受けて少しでも返済したり、「きちんと返済するから待ってほしい」と答えたりするだけで、時効が更新されてしまうのです。
実際には、友人・知人や親族からの請求を5年または10年にわたって無視し続けることは難しいでしょう。
そのため、口約束の借金で消滅時効が成立するケースはさほど多くありません。
口約束の借金の返済請求が違法となるケースと対処法
口約束の借金を踏み倒すことはできませんが、その一方で、貸主も取り立てのために何をしてもよいというわけではありません。
ここでは、返済請求が違法となるケースと違法な請求を受けたときの対処法をご説明します。
返済請求が違法となるケース
個人の貸主による取り立てには、貸金業上のルールは適用されません。それでも、度を超えた返済請求は次のようにさまざまな犯罪に該当するケースがあります。
問題となる行為 | 成立する可能性がある犯罪名 |
---|---|
「返済しなければ家に火をつける」などと言って脅す | 脅迫罪、恐喝罪 |
借主の同意なく自宅に立ち入る | 住居侵入罪 |
借主から「帰ってほしい」と言われても居座る | 不退去罪 |
勤務先を訪問して大声で返済を迫る | 名誉毀損罪、業務妨害罪 |
自宅への貼り紙などにより誹謗中傷する | 名誉毀損罪、侮辱罪、器物損壊罪 |
SNSなどに誹謗中傷の書き込みをする | 名誉毀損罪 |
借主に返済義務があるとはいえ、違法な返済請求を受けたときに我慢する必要はありません。警察や弁護士にご相談の上で、適切に対処すべきです。
警察に相談すべきケース
貸主からの返済請求が上記のような犯罪に該当し、身の危険を感じるときは警察に相談しましょう。
ただし、返済請求が違法であっても軽微な場合は、警察が貸主に対応してくれる可能性は低いことに注意が必要です。
例えば、無断で自宅に立ち入られたり、居座られたりすることが1度や2度あっただけで警察を呼んでも、「借金は民事の問題なので、よく話し合ってみてください」と言われるでしょう。
一方で、身の危険を感じるような脅迫を何度も受けたり、勤務先で著しい業務妨害が繰り返し行われているようなケースでは、警察に被害届や告訴状を提出することが有効です。
弁護士に相談すべきケース
貸主から返済請求を受けて困ったときは、どのようなケースでも弁護士に相談できます。
返済請求が犯罪に該当する場合には、弁護士が貸主に対して警告するとともに、必要に応じて刑事告訴の手続きを代行してもらうことも可能です。
犯罪に該当するほどの違法性がないケースでも、弁護士に依頼すれば貸主との交渉を代行してもらえるので、円満な解決に向けて話し合うことが可能となります。
口約束の借金を返済できない場合は債務整理
どうしても借金を返済できない場合には、債務整理が有効です。個人間の借金も、口約束の借金も、債務整理の対象となります。
債務整理とは、借金を踏み倒すのではなく、法律に則って借金を減額または免除してもらうことができる手続きのことです。
主な手続きとして、任意整理・個人再生・自己破産の3種類があります。
任意整理では貸主との交渉が必要ですが、弁護士を間に入れて的確に交渉すれば、和解で解決できる可能性が高まります。
どうしても貸主との交渉がまとまらない場合には、借金額にもよりますが、個人再生または自己破産が有効です。
個人再生および自己破産では、一定の条件を満たせば裁判所の決定によって強制的に借金が大幅に減額されたり、全額免除されたりします。
他にも借金がある場合には、個人再生や自己破産を検討してみるとよいでしょう。状況に合った手続きを選んで行えば、口約束の借金も解決できます。
口約束の借金トラブルは弁護士に相談を
口約束の借金で貸主とトラブルになったときは、早めに弁護士に相談することを強くおすすめします。
弁護士の力を借りることで、次のメリットが得られます。
- 弁護士が代理人として貸主と交渉する
- 時効が成立しているかどうかを的確に判断できる
- 時効が成立している場合には援用の手続きを代行してもらえる
- 他に借金がある場合にも債務整理を依頼できる
- 受任通知の送付により督促や返済がいったん止まる
- 債務整理の複雑な手続きを一任できる
最適な解決方法は状況によって異なりますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
口約束の借金にも返済義務がありますが、時効や債務整理で解決することも可能です。
借金を踏み倒そうとするとトラブルが深刻化するおそれが強いので、個人間の借金は放置せずに適切な解決方法を検討すべきです。弁護士の力を借りて、円満な解決を目指しましょう。
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