- 借用書のない個人間借金も5年または10年で時効が成立する
- 借用書なしの場合は時効の起算日を借主側で証明する必要がある
- 時効が中断するケースもあることに注意が必要である
- 時効成立を主張するためには時効援用の手続きをしなければならない
何年も前に友人や知人から借用書なしで借りたお金の返済を迫られ、「時効を主張できないか」とお考えの方もいらっしゃることでしょう。
結論からいいますと、個人間借金にも時効があり、返済しない状態が一定の期間にわたって続くと時効が成立します。
ただし、借用書がない場合には、「いつから」時効期間が進行し始めるのかをめぐるトラブルが生じがちです。
また、時効は中断することもあり、その場合には「一定の期間」が経過しても時効が成立しないことにも注意しなければなりません。
そこで、この記事では借用書なしの個人間借金における時効期間や中断するケースについて、わかりやすく解説します。
個人間の借金にも時効はある
個人間の借金にも時効はあります。借用書がある場合もない場合も、時効に関するルールは同じです。
時効期間は5年または10年
個人間の借金の時効期間は、5年または10年です。以下のように、借りた時期により時効期間が異なることにご注意ください。
借りた時期 | 時効期間 |
---|---|
2020年3月31日以前 | 10年 |
2020年4月1日以降 | 5年 |
「10年」の時効期間は、「権利を行使することができる時」から進行し始めます。具体的にいうと、10年の時効期間の起算日は次のようになります。
- 返済期日を定めていた場合…返済期日の翌日
- 返済期日を定めていない場合…借入をした日
「5年」の時効期間は、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から進行し始めます。
「権利を行使することができる時」と「債権者が権利を行使することができることを知った時」は、ほとんどのケースで一致します。
しかし、「仕事に就いたら返済する」というように条件付きで借りた場合には、条件が成就したこと(就職)を債権者が知るまで、5年の時効期間はスタートしません。
ただし、債権者が権利を行使することができることを知らないままでも、「権利を行使することができる時」から10年が経過すると時効が成立します。
以上の説明は、借りてから1度も返済していない場合を想定したものです。
分割払いなどで1度でも返済している場合は、最後に返済した日の翌日から5年または10年の時効期間が進行します。
借用書なしでも時効は成立する
借用書がない場合も、借用書がある場合と同じルールで時効が成立します。
なぜなら、借金の契約(金銭消費貸借契約)は口約束でも成立し、借用書の有無によって法的な効力は変わらないからです。
したがって、借用書がない場合も、借入日や返済期日の定めの有無、最後の返済日などを確認して、時効の成否を判断することになります。
借用書がない場合の時効の起算日について
借用書がない場合は、時効の起算日が曖昧になりやすいことに注意が必要です。
借用書に借入日や返済期日が記載されていれば、時効の起算日を明確に判断できます。しかし、口約束だけで貸し借りをした場合は、借入日や返済期日について当事者の意見が食い違うことが少なくありません。
このような場合、借主が時効を主張するためには、以下のように対処する必要があります。
時効の起算日を借主が証明しなければならない
時効の起算日について当事者の意見が食い違う場合には、借主が時効の起算日を証明しなければなりません。
なぜなら、時効の成立を主張するためには、時効によって利益を受ける側(借主)が、時効期間が経過したことを証明しなければならないという法律上のルールがあるからです。
例えば、2024年7月1日において、10年以上前の借金の時効成立を主張する場合で考えてみましょう。
貸主が時効成立を認めれば問題はありませんが、「貸したのは2014年8月以降だから、まだ時効にかかっていない」と主張した場合は、借主が時効の起算日を証明する必要があります。
ただし、厳密に「何年何月何日に借りた」ことを証明できなくても、「少なくとも10年以上が経過した」ことを証明できれば、時効成立の主張が認められます。
上記のケースでは、借入日が2014年6月30日よりも前であったことを証明できればよいのです。
時効の起算日の証拠となるもの
借用書がない場合は、次のような証拠で時効の起算日を証明する必要があります。
- メールやLINEでやりとりした際のログ
- 相手とのやりとりを記録した日記など
- 通帳の履歴(借入金の受け取りや、最後の返済日に送金したことが分かるもの)
- 振り込み明細書(最後の返済日に送金したことが分かるもの)
客観的な証拠がない場合には、記憶している事実を記載した陳述書を証拠とすることも不可能ではありません。
例えば、「○年○月○日に事業を始めるに当たり、その前に借りた」というように、具体的に証明可能なエピソードに関連して借入の時期を説明できれば、有力な証拠として使える可能性があります。
個人間借金の時効が中断するケース
5年または10年の時効期間が経過しても、時効が中断している場合は、時効が成立していない可能性があります。
個人間借金の時効が中断するのは、以下のケースです。
債務の承認
借主が貸主に対して債務があることを承認した場合は、その時点で時効が中断します。
以下のようなケースは債務の承認に当たるので、注意しましょう。
- 1円でも返済した場合
- 返済を待ってほしいと頼んだ場合
- 借金の減額を申し出た場合
- いつまでに返済するのかを約束した場合
債務の承認をすると、それまでの時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行し始めます。
承認したのが2020年3月31日以前ならさらに10年、2020年4月1日以降ならさらに5年が経過するまで、時効は成立しません。
裁判上の請求
貸主が支払督促や少額訴訟、通常訴訟といった裁判手続きで返済を請求した場合は、その時点で時効が中断します。
裁判所で貸主の訴えが認められ、借主に対して支払いを命じる裁判が確定すると、そのときから10年が経過するまで時効は成立しません。
差し押さえ
貸主が強制執行を申し立てたり、抵当権などの担保権を実行して借主の財産を差し押さえた場合は、その時点で時効が中断します。
差し押さえを受けても借金を完済できなかった場合、残りの借金については差し押さえの時から新たに5年(差し押さえが2020年4月1日以降の場合)または10年(差し押さえが2020年3月31日以前の場合)の時効期間が進行し始めます。
なお、差し押さえによる時効の中断が問題となるのは、公正証書で借用書を作成していた場合や、担保を提供していた場合などに限られます。
個人間借金で借用書がない場合には、まず「裁判上の請求」があるので、差し押さえによる時効中断を気にする必要はないでしょう。
裁判外の請求(催告)
貸主が借主に対して、裁判外で返済を請求することを「催告」といいます。
時効成立前の6ヶ月以内に催告を受けた場合は、そのときから6ヶ月間だけ時効の完成が猶予されます。
その間に債務の承認や裁判上の請求などの時効中断事由がなければ、催告から6ヶ月が経過したときに時効が成立します。
債権者と債務者の合意
貸主と借主が借金の返済について「協議すること」を合意した書面を作成した場合は、そのときから最長1年間、時効の完成が猶予されます。
このルールが適用されるのは、借金の返済義務の有無を含めて協議する場合に限られます。
返済義務があることを認めて返済方法の協議をすることとした場合は「債務の承認」に当たるため、それまでの時効期間がリセットされることにご注意ください。
時効が成立した個人間借金の返済を請求されたときの対処法
個人間借金の時効が成立しても、それだけで自動的に返済義務が消滅するわけではありません。
貸主から返済を請求された場合は、次のように対処しましょう。
返済や返済の約束をしてはいけない
時効期間が経過した後でも、貸主に対して返済や返済の約束をすると「債務の承認」に当たります。
そのため、新たに時効期間(2020年4月1日以降は5年)が経過するまで時効の主張ができなくなってしまうことに注意が必要です。
貸主から強く返済を迫られたとしても、1円も返済してはいけません。返済の猶予や減額を求めることも控えましょう。
時効援用通知書を送付する
時効を主張するためには、「援用」という手続きが必要です。
時効の援用とは、貸主に対して「時効が成立したので支払いません」という意思表示をすることです。
この意思表示は口頭で行っても有効です。しかし、一般的には時効を援用したことを証拠化するために、「時効援用通知書」を作成し、内容証明郵便で貸主へ送付します。
配達証明付きの内容証明郵便とすることで、時効の援用をした事実と、その意思表示が貸主に到達した年月日を郵便局が証明してくれます。
裁判で時効を援用する
貸主が裁判上の請求をしてきたときは、その裁判で時効を援用することができます。
支払督促の場合は「異議申立書」に、訴訟の場合は「答弁書」に、時効期間が経過したことと、その時効を援用する旨を記載して裁判所へ提出しましょう。
貸主が有効な反論をしない限り、これで借金の返済義務が消滅します。
時効の援用に失敗するとどうなる?
時効が成立したら、時効の援用を確実に行うことが大切です。
時効の援用に失敗すると、その時点で時効が更新され、さらに5年または10年が経過しないと時効の主張ができなくなってしまいます。
貸主から返済を請求された場合はもちろんのこと、請求がない場合でも時効援用通知書を内容証明郵便で送付しておいた方がよいでしょう。
貸主はいつ請求してくるか分かりませんので、早めに時効の援用をして、返済義務を確定的に消滅させた方が安心できます。
個人間借金の時効で弁護士に相談するメリット
個人間借金で時効が気になるときは、弁護士に相談してみることをおすすめします。弁護士に相談することで得られるメリットは、以下のとおりです。
- 時効の成否を正確に判断してもらえる
- 時効援用の手続きを代行してもらえる
- 貸主から請求された場合は代理人として対応してもらえる
- 貸主と直接やりとりする必要がないので、債務の承認などで時効援用に失敗するおそれがない
- 時効が成立していない場合や時効援用に失敗した場合は、債務整理も視野に入れて最適な解決方法を提案してもらえる
特に、貸主から返済を請求された場合に自分で対応すると、債務の承認などをしてしまいがちです。貸主への対応を弁護士に一任することで、大きなメリットが得られます。
まとめ
個人間の借金も5年または10年で時効にかかりますが、借用書がない場合は時効の起算日を証明するために苦労することが少なくありません。
貸主から返済を迫られて債務の承認をしてしまうと、返済を拒めなくなってしまいます。時効の援用を確実に行うためには、早めに弁護士へ相談することを強くおすすめします。
昔の借金問題は、弁護士の力を借りて解決してしまいましょう。
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