- 一般的に別れた彼女へデート代・生活費・同棲家賃等を返す義務はない
- 別れた彼女からお金を借りていた場合などでは支払義務が生じる
- 別れた彼女からの不当請求が止まらないときは弁護士を通じた対応が有効である
- 別れた彼女に支払うべきデート代・生活費・同棲家賃等も債務整理の対象となる
世知辛い世の中を反映してか、個人間の金銭トラブルが増加しています。
その中には、別れた元恋人から「今までに使ったデート代や食事代などのお金を返してほしい」と言ったケースや同棲解消後に「今までの家賃や生活費を請求される」といったトラブルがあります。
また、二者間の問題で終わらず、別れた彼女の今の彼氏や夫を名乗る第三者の男性が出てきて、強硬な姿勢で高額な金額を一括請求してくるといったケースもあります。
お金の問題については、当事者間で話し合っても感情的になりがちで、円満に解決することは難しいものです。まずは、法律上の支払義務の有無を的確に判断することが重要です。
この記事では、別れた彼女が交際中に使ったお金を支払う義務があるのか、お金を請求されたときにどのように対処すればよいのかについて解説します。
別れた彼女から請求されたお金を支払う義務はある?
まずは、法的な観点から、別れた彼女からお金を請求されたときに支払う義務があるかどうかをみていきましょう。
贈与に当たる場合は支払義務なし
交際中に元彼女が使ったお金が、あなたへの「贈与」に当たる場合は、別れた後に請求されても支払義務はありません。つまり、交際中にもらったものは返す必要がないということです。
贈与契約は贈与した側の一存では取り消せないため、「やっぱり返してほしい」と言われても応じる必要はないのです。
借りていた場合は支払義務あり
恋人同士の間でも、相手からお金を借りて後で返す約束をしていた場合には、返済する義務があります。この場合には、金銭消費貸借契約が成立しているからです。
例えば、スーツを買うお金が不足したときに「必ず返すから5万円を貸してほしい」と頼んで借りた場合には、5万円を返済する義務があります。
別れるまで返済を請求されなかったとしても、元彼女が返済を待ってくれていただけに過ぎません。請求されたら、返済しなければなりません。
返す約束をした場合は支払義務あり
借りたのではなくもらった場合でも、元彼女から請求されて「返す」と約束した場合には支払義務が生じます。
贈与契約は相手の一存では取り消せませんが、2人が合意すれば解除できるからです。贈与契約を解除した後は、もらったものを返さなければなりません。
損害賠償として支払義務が生じる場合も
元彼女と婚約していた場合、不当に婚約を破棄すると損害賠償義務が生じます。
この損害賠償義務には、精神的損害に対する慰謝料の支払義務と、財産的損害に対する賠償義務とがあります。
元彼女が結婚を前提として支払ったお金が財産的損害に該当することもありますし、婚約を破棄した事情によっては相応の慰謝料の支払いが命じられることにもなりかねません。
別れた彼女にお金を支払う義務がないケース
ここからは、具体的なケース別に、別れた彼女にお金を支払う義務があるのかないのかをご説明していきます。
まずは、基本的に支払う義務がないケースをみていきましょう。
元彼女が厚意でお金を出してくれていた場合
元彼女が厚意でお金を出してくれていた場合は贈与に当たるため、返す義務はありません。多くの場合は、このケースに該当するでしょう。
一般的に交際中の恋人の一方が2人のための費用を負担する場合、金銭的な見返りを求めず相手のために支出するものです。お金を出してもらう側の人も、相手の厚意を受け止めてお金を出してもらうはずです。このとき、2人の間で暗黙のうちに贈与契約が成立しています。
ただし、男性側の詐欺や強迫によって元彼女にお金を出させていたような場合には、元彼女が贈与契約を取り消すことが可能です。
詐欺・強迫の典型的なケースは以下のとおりです。
- 詐欺
男性側が既婚者であるにもかかわらず独身者と偽り、結婚をちらつかせて独身女性と交際したようなケース - 強迫
男性側がDVをはたらいてお金をたかっていたようなケース
贈与契約を取り消されると、デート代・生活費・同棲家賃などの半分を支払う義務が生じる可能性があります。
2人で折半する約束だったが自己負担分を払えなかった場合
2人の間でデート代・生活費・同棲家賃などを折半する約束をしたものの、男性側が自己負担分を払えないということもあるでしょう。
彼女が社会人で彼氏が大学生の場合や、双方が社会人でも彼氏が失業などで経済的な余裕がなくなった場合などに起こりがちです。
元彼女が「余裕ができたら払ってほしい」と言いつつ全額を支払った場合、通常は贈与契約が成立し、返す義務はないと考えられます。
それに対して、元彼女が「今は立て替えて支払っておくけど、余裕ができたら返してほしい」と要求し、男性側も同意した場合は、金銭消費貸借契約が成立しています。
この場合には、元彼女の請求に応じて返済する必要があります。
元彼女の現在の彼氏や夫が脅迫まがいに要求してきた場合
元彼女への支払義務があり、今の彼氏が代理権を持っている場合を除いて、現在の彼氏や夫に対してお金を支払う義務はありません。
代理権があるケースは元彼女が現在の彼氏や夫に取り立てを委任し、委任状を提示されたような場合です。
恋人関係を解消したからといって、現在の彼氏や夫に対しては慰謝料の支払義務も生じません。
近年、このように過去の恋愛関係を責め立てて、脅迫まがいにお金を要求する事例が増えています。「現在の彼氏」や「夫」というのも名ばかりで、暴力団や半グレのような反社の人たちが脅迫しているケースもあります。
たとえ元彼女への支払義務があり、現在の彼氏や夫と名乗る人物に代理権がある場合でも、脅迫行為は許されません。脅迫罪や恐喝罪といった犯罪が成立する可能性もありますので、警察や弁護士に相談して対処した方がよいでしょう。
別れた彼女にお金を支払う義務があるケース
次に、別れた彼女にお金を支払う義務が生じる可能性が高いケースをみていきましょう。
後に返すことを約束して元彼女に全額を出してもらっていた場合
男性側の収入に余裕がないなどの理由で、後に返す約束で元彼女に立て替え払いをしてもらっていた場合は、金銭消費貸借契約が成立しているため、返済する義務があります。
もっとも、男性側が「後で必ず返す」と言っても、元彼女が「無理しなくていいよ」と言って払ってくれるケースもあるでしょう。この場合には、金銭消費貸借についての合意がなく贈与に該当すると考えられるため、返済する義務はありません。
交際中の恋人同士の間では、約束の内容が曖昧であったり、日々変化することも多いものです。「返す」「返してもらう」という明確な合意がなければ金銭消費貸借契約は成立せず、基本的には贈与に当たります。とはいえ、約束した内容を正確に確認することは重要です。
別れた後に支払いを請求されて「払う」と発言した場合
交際中に元彼女が支払ったお金が贈与に当たる場合でも、別れた後にお金を請求されて「払う」と発言した場合は、その時点で贈与契約を合意解除したことになります。したがって、支払義務が生じます。
元彼女から請求を受けたときに、「支払を待ってほしい」「減額してほしい」などと申し出た場合も、支払義務を認めていることになるため、支払わなければならない可能性が高いです。支払うつもりがなくても、「払うから、もう連絡してくるな」と発言した場合も同様です。
結婚を前提としていた場合
結婚を前提として交際していた場合で、婚約が成立していたのであれば、婚約を不当に解消した男性側は損害賠償として相応の金額を支払わなければならない可能性があります。
特に同棲していた場合は、元彼女が支払っていた生活費や同棲家賃を同棲解消後に請求されることになりがちです。ただし、同棲しただけで婚約が成立するわけではありません。
婚約とは、男女が将来結婚する約束をする契約のことです。理論上は、2人の間で「結婚しよう」と約束するだけで成立します。
しかし、本気で結婚する意思があったかどうかは、当事者にしかわかりません。そのため、裁判の実務上は、結納や親族への挨拶、婚約指輪の交換などの客観的な事実がなければ婚約が認められる可能性は低いのが実情です。
たとえ同棲していたとしても、婚約が成立していなければ、基本的に元彼女にお金を支払う義務は生じません。
支払義務がないのに別れた彼女が執拗に請求してくるときの対処法
法律上の支払義務がない場合は、別れた彼女がお金を請求してきても支払いを拒否すれば足ります。何らかの手続きを行う必要はありません。
しかし、執拗に請求してくる場合には、事態を収めるために以下の対処法が必要となってくるでしょう。
誠実に交渉する
まずは、元彼女と誠実に話し合ってみることを検討してみましょう。
元彼女としてはお金が欲しいわけではなく、感情的なしこりがあってお金を請求しているのかもしれません。別れる際の男性側の態度に誠意がなかったような場合などに、このようなトラブルが起こりがちです。
必要に応じて謝罪した上で、支払義務がないことを冷静に説明して交渉すれば、元彼女も納得して解決する可能性があります。
警察に相談する
元彼女からの請求が強行的で身の危険を感じるような場合は、警察に相談しましょう。特に、現在の彼氏や夫と名乗る人が脅迫まがいの請求をしてくる場合には警察への相談が有効です。
個人間のお金のトラブルでは、以下のような犯罪が発生することも少なくありません。
- 暴行罪
- 傷害罪
- 脅迫罪
- 恐喝罪
- 住居侵入罪
- 不退去罪
- 器物損壊罪
- 名誉毀損罪
犯罪が成立して実害が生じている場合には警察による対応が期待できますので、被害届または告訴状を提出するようにしましょう。
接近禁止命令等を申し立てる
元彼女からつきまとわれたり、電話やメールによる連絡が頻繁に行われている場合には、ストーカー規制法に基づく「接近禁止命令」や「電話等禁止命令」を裁判所に申し立てることが可能です。
申立てが認められると、6ヶ月間、元彼女の以下のような行為が禁止されます。
- 身辺につきまとうこと
- 自宅や勤務先の付近を徘徊すること
- 電話やメールを連続して発信すること
- 午後10時から午前6時までの間に電話やメールで連絡すること
- 面会を要求すること
- 著しく乱暴な言動をすること
命令に違反すると刑事罰の対象となるので、裁判所の命令には事実上の強制力が期待できます。
弁護士に対応を依頼する
元彼女への対応に困ったときは、弁護士に対応を依頼することが最も有効な対処法となります。当事者同士のやりとりでは感情的になりがちですが、弁護士を間に入れることで冷静かつ論理的な交渉が可能となります。
弁護士から元彼女に対して不当請求をやめるように警告し、支払義務がないことを論理的に説明して交渉することで、事態が収まる可能性が高まります。
また、相手に支払いが必要な場合でも弁護士が減額になるように交渉したり、分割払いにするなどの提案も行ってくれます。
別れた彼女への支払義務があるが払えないときの対処法
別れた彼女への支払義務がある場合でも、支払いを拒否して様子を見るという対処法も考えられます。民事上のお金の支払義務は、請求する側が裁判を起こして勝訴しない限り、強制できるものではないからです。
ただ、支払義務があるのなら元彼女の言い分に理があります。放置すると深刻なトラブルに発展する可能性もありますので、以下の対処法により解決を図る方がよいでしょう。
支払額や支払方法を交渉する
お金の問題では、当事者が合意すれば、支払額や支払方法を自由に決められます。誠意をもって交渉すれば、減額や分割払い、支払いの延期などに応じてもらえる可能性が十分にあるはずです。
元彼女の気持ちに配慮しつつ、こちらの経済状況なども伝えるようにして、丁寧に交渉しましょう。元彼女の理解が得られたら、支払額0円で示談できる可能性もあります。
どうしても支払えないときは債務整理をする
どうしても支払えないときは、債務整理をすれば解決できます。債務整理とは、法律に則った手続きで負債を減免することが可能な借金救済制度のことです。
個人間でのお金の貸し借りで生じた金銭債務も、債務整理の対象となります。また、カードローンや消費者金融など、他にも借金がある場合には、まとめて債務整理で解決することを検討するとよいでしょう。
別れた彼女を相手に債務整理をするときの注意点
債務整理には、主に任意整理・個人再生・自己破産という3種類の手続きがあります。別れた彼女を債権者として債務整理をするときには、以下の点に注意が必要です。
任意整理では冷静な交渉が必要
任意整理とは、債権者と直接交渉して借金を減額してもらう手続きのことです。交渉により和解を結ぶ必要があります。
相手が貸金業者なら冷静な交渉が可能でも、元彼女が相手になると感情的な対立のために交渉が進まないことになりかねません。和解に応じるかどうかは元彼女の意向次第なので、冷静に交渉することが必要です。
元彼女が交渉に応じない場合には、他の借金だけを整理し、元彼女へ優先的に支払うことも考えられます。
個人再生では元彼女が反対意見を提出することがある
個人再生とは、裁判所の手続きを利用して借金総額を5分の1~10分の1程度に減額した上で、3~5年で分割返済する手続きのことです。
個人再生のうち、小規模個人再生では、再生計画案に反対する債権者が次の基準のどちらかに達すると、手続きは失敗に終わります。
- 総債権者の半数以上
- 反対した債権者が有する債権額の合計が総債権額の2分の1以上
他の借入先(貸金業者)が多ければさほど心配する必要はありませんが、債権者数が少ない場合には元彼女の意見が個人再生の成否に影響を及ぼす可能性が出てきます。
その場合には、事前に元彼女と交渉して理解を得ておくか、それが難しい場合には給与所得者等再生または自己破産を検討することになるでしょう。
なお、給与所得者等再生では多数の債権者が反対しても借金の減額が認められる可能性があるものの、小規模個人再生よりも返済額が大きくなる傾向にあることに注意が必要です。
自己破産でも元彼女が免責に反対することがある
自己破産とは、裁判所の手続きを利用して、一定の条件の下に借金を全額免除してもらう手続きのことです。借金を全額免除してもらうことを「免責」といいます。
自己破産の手続きでは、債権者には免責について意見を提出する機会が与えられます。貸金業者が反対意見を提出することはほとんどありませんが、個人の債権者は感情的な問題から反対意見を提出することがあります。
反対意見が提出されても、法律上の免責不許可事由がなければ結果として免責が許可されますが、反対意見に対しては的確に反論しなければなりません。
そのため、自己破産手続きが複雑化してしまうことに注意が必要です。やはり、事前に元彼女に事情を説明して理解を得ておくことが望ましいといえます。
債務整理の手続き外で元彼女に返済してはいけない
自己破産と個人再生では、すべての債権者を公平に取り扱う必要があります。このことを「債権者平等の原則」といいます。
特定の債権者に対してのみ優先的に返済することは「偏頗弁済」に該当し、手続きに支障をきたすおそれがあることに注意が必要です。
自己破産では、偏頗弁済は免責不許可事由とされているため、原則として免責が認められなくなります。個人再生では、偏頗弁済した金額が保有資産に加算されることにより、再生計画による返済額が増えてしまうことがあります。
貸金業者のほとんどは債務整理に協力的なので、手続き外で請求してくることはまずありません。しかし、元彼女など個人の債権者は債務整理のルールを知らずに請求してくることがありますので、くれぐれも注意が必要です。
別れた彼女からお金を請求されたら弁護士に相談を
別れた彼女からお金を請求されて困ったときは、感情的なトラブルに発展する前に、弁護士に相談しましょう。法律の専門家に相談することで、支払義務の有無と、状況に応じた最適な解決方法がわかります。
さらに、元彼女への対応を弁護士に依頼することで以下のメリットが得られます。
- 元彼女や現在の彼氏、夫との交渉を代行してくれる
- 円満な示談が期待できる
- 自分で相手とやりとりする必要がなくなる
- 執拗な請求や脅迫まがいの請求に対しては刑事告訴を視野に入れて警告してくれる
- 刑事告訴や接近禁止命令等の申立て手続を代行してくれる
- 債務整理が必要な場合には最適な手続きがわかる
- 債務整理の複雑な手続きは弁護士が代行してくれる
まとめ
別れた彼女から交際中のデート代・生活費・同棲家賃などの支払いを請求されても、多くの場合は贈与に該当し、支払う必要はありません。しかし、場合によっては法的な支払義務が生じる場合もありますので、支払義務については慎重に確認すべきです。
そして、支払義務がある場合もない場合も、元彼女からの請求を止めるためには法的措置や債務整理も視野に入れて、適切に対処しなければなりません。その際には、弁護士という法律の専門家の知識とノウハウを活用できます。
別れた彼女との金銭トラブルは、弁護士の力を借りて速やかに解決してしまいましょう。
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