- 個人の貸主からの不当な要求に応じると縁を切ることは難しい
- 個人の貸主との縁を切る前に返済義務の有無を確認することが重要である
- 金銭トラブルの相手と絶縁するには法的措置も視野に入れて毅然と対応すること
- 弁護士を間に入れて交渉すれば相手と直接やりとりする必要がなくなる
個人間の借金では、貸主が必要以上にしつこく催促してきたり、理不尽な要求を突きつけてきたりなどして、金銭トラブルにつながりがちです。
仕事や私生活に支障をきたすような金銭トラブルに巻き込まれてしまったときには、相手と縁を切りたいと考えるのも自然なことでしょう。
ただし、相手の要求を「これが最後」と言って聞き入れたり、逆に無視したりするだけでは、貸主との縁を切ることは難しいです。絶縁するためには、返済義務の有無や範囲を確認した上で、法的措置も視野に入れて、毅然と対応する必要があります。
この記事では、金銭トラブルの相手と縁を切る方法について、わかりやすく解説します。
個人の貸主が不当な要求をしてくる理由
まずは、個人の貸主が不当な要求をしてくる理由を確認しておきましょう。相手の心理を把握することで、縁を切るための対処法も検討しやすくなります。
本人は正当な要求だと思っているから
友人や知人、恋人などからの借金では、客観的に見れば不当な要求でも、貸主は正当な要求だと思っていることが多いものです。
法律の知識が乏しい個人の貸主は、次のように考えていることも少なくありません。
- 貸したお金には利息を上乗せして返してもらうのが当然
- 貸した側が請求すれば、いつでもすぐに返してもらうのが当然
- 返さない方が悪いのだから、どのような取り立てをしてもよい
- 借主本人が返せなければ、家族に請求してもよい
このような考えから、借りた以上の金額を請求されたり、期限前に返済を迫られたり、執拗な取り立てをしてきます。
脅せば払うと思っているから
インターネットを介した個人間融資や地元の先輩などは、「こいつは脅せば払う」と考えて、次々に不当な要求をしてくることがあります。
このような貸主は、借主のことを「金づる」だと考えています。自分の要求が不当であることを知りながら、脅迫的な取り立て手段を用いて、多額の金銭を巻き上げようとしているのです。
復讐したいと思っているから
元恋人など男女間の借金では、別れた相手に復讐したいという思いから、不当な要求をしてくる貸主もいます。
交際中は「返さなくていい」と言っていたのに、別れた途端、「今までに渡したお金をすべて返せ」「利息も加算して返済しろ」などと迫ってくるケースが典型例です。
不当な要求をする相手の言いなりになるリスク
個人の貸主から不当な要求を受けたとき、「うるさいから要求を呑んでやろう。それで関係を終わりにしよう」と考える方もいますが、このような対処法はおすすめできません。
不当な要求をする相手の言いなりになると次のようなリスクを抱えることになり、結局、縁を切れない可能性が高いからです。
- 次々にお金を要求される
- いつまでも関係が切れない
- 家族や職場に悪影響が及ぶこともある
次々にお金を要求される
「脅せば払う」と考えている貸主に対して少しでも返済に応じると、次々にお金を要求されることが多いです。
このような貸主は、最初から脅すことで多額の金銭を巻き上げることを目的としています。そのため、不当な要求に応じることは逆効果となります。
いつまでも関係が切れない
借主が「これで終わりにしたい」と考えていても、不当な要求をする貸主は、そのようには考えていません。
特に、肉体関係を要求する貸主は関係の継続を望んでいるのですから、要求を呑むことで関係を終わらせることは難しいです。
借金を免除してもらうために肉体関係に応じたとしても、利息が残っているなどと理不尽な主張をして、関係の継続を強要されることがあります。
応じなければ、個人情報や裸の写真などを「ネットで拡散するぞ」と脅されるケースも多いです。このように弱みを握られていれば、相手と絶縁することは難しくなるでしょう。
家族や職場に悪影響が及ぶこともある
相手の要求を呑んでも次々に不当な要求をされたのでは、応じ続けることはできないでしょう。応じきれなくなれば、家族に悪影響が及ぶこともあります。
例えば、インターネットを介した個人間融資では、借主本人が返済できなければ闇金のように家族や職場に催促の連絡が入ることがほとんどです。
友人や知人、元恋人などからの借金でも、家族や職場に取り立てが及ぶケースは少なくありません。
パパ活相手からの借金では、家族や職場の人にパパ活の事実をバラされることがあります。
このようにして第三者に取り立てが及んだり、秘密をバラされたりすると、家庭や職場にいづらくなってしまうでしょう。
金銭トラブルの相手と縁を切る前に確認すべきこと
金銭トラブルの相手と縁を切るためには早期に適切な対処が必要ですが、その前に以下の3つのポイントを確認しておきましょう。
- 返済義務が残っていないか
- 相手の要求に違法性はあるか
- 不当な要求行為の証拠はあるか
返済義務が残っていないか
まずは、返済義務が残っていないかどうかを確認しましょう。
次のケースのどれかに該当する場合は、返済義務がない可能性が高いです。
- 相手が「返さなくていい」と言っていた場合
- 出資法の上限金利(年109.5%)を著しく上回る金利で借りた場合
- 肉体関係の対価として借りた場合
分割払いの約束をしていた場合は、「期限の利益喪失条項」を取り決めていない限り、滞納していても返済期限が未到来の分まで一括で返済する義務はありません。
「期限の利益喪失条項」とは、滞納が一定の回数に及ぶと返済期限の約束が無効となり、残額を一括で返済する義務が生じることを取り決めた条項のことです。「分割金の支払いを○回以上怠ったときは期限の利益を失い、残額を一括してただちに支払う」というように取り決めるのが一般的です。
金融機関や貸金業者からの借金では、必ず期限の利益喪失条項が定められます。しかし、個人間の借金では期限の利益喪失条項を取り決めていないことも多いです。
一方で、「返済はいつでもいい」と言われていたのに一括返済を要求された場合は、「相当な期間」(通常は数日~2週間程度)が経過した後に一括返済しなければなりません。
相手の要求に違法性はあるか
個人間の借金には貸金業法が適用されないため、取り立てに関する明確なルールは存在しません。しかし、以下の要求行為は他の法律に抵触するため、違法となる可能性があります。
要求行為 | 抵触する可能性がある法律 |
---|---|
早朝や深夜の取り立て | 民法(不法行為) |
執拗な電話やメール、LINE | 民法(不法行為) 刑法(仕事に支障をきたした場合は威力業務妨害罪) |
脅迫による取り立て | 刑法(脅迫罪、程度によっては恐喝罪や強盗罪) |
暴力による取り立て | 刑法(暴行罪、怪我をすれば傷害罪、程度によっては強盗罪や強盗致傷罪) |
家族や職場への取り立て | 民法(不法行為) 刑法(仕事に支障をきたした場合は威力業務妨害罪) |
自宅や職場に無許可で立ち入る | 刑法(住居侵入罪) |
「帰ってほしい」と言っても居座る | 刑法(不退去罪) |
プライベートな事実を口外する | 刑法(名誉毀損罪) |
他からの借入での返済を迫る | 刑法(強要罪) |
法外な利息の要求 | 出資法(高金利の処罰) |
以上の行為は、返済義務の有無にかかわらず、違法となる可能性があることに注意しましょう。
不当な要求行為の証拠はあるか
金銭トラブルの相手と絶縁するために法的措置をとる場合は、不当な要求行為の証拠が必要となります。
そのため、以下のような証拠が手元にあるかを確認しましょう。ない場合は、これから確保しましょう。
- 相手から受信した電話、メール、LINEの履歴
- 相手とやりとりをしたメールやLINEのログ
- 相手の発言を録音したデータ、またはメモや日記に記録したもの
- 怪我をした部位の写真や診断書、病院の領収書など
- 家族や職場の人など第三者の証言
金銭トラブルの相手と絶縁する方法
金銭トラブルの相手と絶縁するためには、以下の方法が役立ちます。ご自身に該当するものがないか、確認していきましょう。
- 電話番号を変えるなどして連絡手段を断つ
- 債務不存在確認請求訴訟
- 刑事告訴
- 接近禁止の仮処分の申立て
- 保護命令の申立て
- 警察による警告や禁止命令
電話番号を変えるなどして連絡手段を断つ
絶縁するための最も手っ取り早い方法は、連絡手段を断つことです。可能であれば、以下の方法を試してみましょう。
- 電話番号を変更する
- メールアドレスを変更する
- LINEやSNSのアカウントを削除する
ただし、自宅や実家の住所、勤務先などの個人情報を相手に知られている場合は、別の手段で連絡されてしまいます。その場合は、以下の法的措置も検討しましょう。
債務不存在確認請求訴訟
返済義務がない場合や、借りた以上の金額を請求されている場合には、裁判所に債務不存在確認請求訴訟を提起することが考えられます。
債務不存在確認請求訴訟とは、金銭の支払いを請求された側の人が、支払い義務がないことを証明するために提起する訴訟のことです。支払い義務がないことを裁判所が確認した場合は、その旨の判決が言い渡されます。
相手が自分の要求を正当と考えているケースでは、中立・公平な裁判所の判決によって解決できる可能性が高いです。
刑事告訴
脅迫や暴力を伴う取り立てなど、先ほど掲げた犯罪に該当する要求行為があった場合は、警察に刑事告訴をすることが考えられます。
刑事告訴が受理されると警察が必ず動いてくれるので、不当な要求は止まることが多いです。
ただし、金銭トラブルに関する事案では、警察が民事の問題であると判断して刑事告訴をなかなか受理してくれないことも多いです。そんなときは、弁護士を通じて刑事告訴を行うと、受理される可能性が高まります。
接近禁止の仮処分の申立て
民事的な解決方法として、民事保全法に基づく「接近禁止の仮処分」を裁判所に申し立てるという方法もあります。
「接近禁止の仮処分」とは、申立人の平穏な生活を送るという権利を守るために、裁判所が相手に対して不当な要求をやめるように命じてくれる仮処分のことです。具体的には、申し立て内容に応じて、訪問・接近・面談の要求・架電(電話をかけること)・メールの送信・ビラ貼付などの禁止を命じてもらうことが可能です。
「仮処分」というのは、債務不存在確認請求訴訟などの本案訴訟における判決を待つことができない緊急の必要性がある場合に、裁判所が暫定的に行う処分のことをいいます。
本来は本案訴訟(債務不存在確認請求訴訟など)を提起する前提として利用できる制度ですが、必ずしも本案訴訟を提起する必要はありません。
仮の処分ではあっても、裁判所から何かを命じられると、普通の人は精神的に大きな衝撃を受けます。そのため、仮処分だけで相手の不当な要求が止まり、目的を果たせることも多いです。
もし、相手が仮処分命令に背いて接近してきた場合は、間接強制の申立てが可能です。この場合の間接強制とは、裁判所から相手に対して「違反した一日又は一回につき○○円の制裁金を支払え」と命じてもらうことにより、仮処分命令を守るように心理的な強制を加える手続きのことです。
相手としては、借主に対して金銭の支払いを要求すればするほど、逆に支払いを命じられるのですから、割に合いません。
したがって、仮処分と併せて間接強制の手続きを活用できれば、ほとんどの場合は不当な要求が止まります。
保護命令の申立て
元恋人や元配偶者からの借金で不当な要求を受けた場合には、DV防止法に基づく保護命令としての「接近禁止命令」を求めることも可能です。
「接近禁止命令」も裁判所への申立てが必要ですが、民事保全法に基づく「接近禁止の仮処分」とは発令要件が異なります。一般的には、「接近禁止命令」の方が発令されやすい傾向にあります。
DV防止法に基づく保護命令としての接近禁止命令でも、申し立て内容に応じて、裁判所から相手に対して、面会の要求・架電・メールの送信・つきまとい行為などの禁止を命じてもらえます。
裁判所の命令に違反して不当な要求をした者に対しては、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑罰が用意されているのが特徴的です。
そのため、接近禁止命令は、民事保全法に基づく接近禁止の仮処分よりも相手に対する心理的強制力が強いといえます。
接近禁止命令が発令されると、ほとんどの場合は不当な要求が止まります。もし、不当な要求が続く場合には警察へ通報して対応してもらうことが可能です。
実際に、接近禁止命令に違反したストーカー行為者が逮捕された事例もあります。
警察による警告や禁止命令
元恋人や元配偶者、パパ活、ひととき融資などの相手から、つきまといなどのストーカー行為を受けている場合には、警察による警告や禁止命令を求めることも考えられます。
警告や禁止命令は警察が行うものなので、裁判所への申立ては不要です。そのため、要件を満たす場合には最も利用しやすい制度といえます。
具体的には、被害者が警察に相談して「不当な要求をやめさせてほしい」と望めば、警察が相手を呼び出して事情を聴きます。不当要求の事実が確認されると、不当な要求をやめるように厳しく注意・指導してくれます。これが「警告」です。
相手が警告に従わずに不当な要求を続けたり、被害者が法的な対応を求めたりした場合は、一定の要件の下に公安委員会による「禁止命令」が発令されます。禁止命令でも、事案の内容に応じて、面会の要求・架電・メール送信・つきまとい行為などの禁止が命じられます。
禁止命令に違反して不当な要求が繰り返された場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金という重い刑罰の対象となります。
相手としては、警察から警告や禁止命令を受けただけでも精神的に強い衝撃を受けるでしょう。禁止命令違反に対しては重い刑罰も用意されているので心理的強制力も強く、不当な要求を止めるための手段として非常に効果的です。
ただし、警告や禁止命令を行うかどうかは警察の判断に委ねられます。したがって、警察に動いてもらうためには、被害の実態を具体的に立証することも重要となります。
金銭トラブルの相手と絶縁するために弁護士ができること
前章では、金銭トラブルの相手と絶縁するために自分でできる対処法をご紹介しました。しかし、弁護士のサポートを受ければ、よりスムーズに絶縁できる可能性を高めることができます。
弁護士は、相手と絶縁するために以下のようなサポートをしてくれるからです。
- 相手との交渉
- 法的措置
相手との交渉
弁護士に対応を依頼すると、弁護士があなたの代理人となり、相手との交渉役を全面的に引き受けてくれます。そのため、あなたが相手と直接やりとりする必要はなくなります。
相手に対しては、弁護士が法的問題を論理的に説明して交渉してくれるので、穏便な解決も期待できます。
納得しない相手に対しては法的措置をとる旨の警告もしてくれるので、多くの場合は弁護士が間に入るとことによって不当な要求が止まります。
法的措置
相手と交渉しても不当な要求が止まらない場合には、弁護士が法的措置の手続きを進めてくれます。
裁判所での複雑な手続きは弁護士が全面的に代行してくれますし、警察での手続きも弁護士が働きかけるなどしてサポートしてくれます。
法的措置がとられると、不当な要求は止まることがほとんどです。しばらく経ってから不当な要求が再開されるケースもありますが、弁護士が付いていれば、さらに交渉や警告、法的措置などによって対応してもらえます。
まとめ
金銭トラブルの相手と縁を切りたいと思ったとき、対処法を誤ると縁が切れないだけでなく、次々にお金を要求されたり、家族に悪影響が及んだりして、深刻なダメージを受けるおそれがあります。
スムーズに相手と絶縁するためには、当事者同士のやりとりをストップし、弁護士に対応してもらうことを強くおすすめします。
最終的には法的措置によって絶縁できる可能性が高いので、まずは弁護士に相談してみましょう。
10,000件
以上の実績