- 個人間の借金でも払えなければ差し押さえを受けることがある
- 借金を払えなくても、あらゆる財産が差し押さえられるわけではない
- 差し押さえ可能な財産がない場合でも10年間は注意が必要である
- 個人間の借金も債務整理で解決できる
個人間の借金でも、返済できなければ財産を差し押さえられることがあります。友人や知人など親しい間柄であっても、お金の貸し借りをすると法律上の債権・債務が生じるからです。
逆にいえば、返済できなくても法律上のルールに則って差し押さえを回避することも可能です。ただ、個人間の借金問題では貸金業者からの借金とは異なり、感情的なトラブルに発展しかねないことにも注意する必要があります。
この記事では、個人間の借金で差し押さえはどのように行われるのか、差し押さえを回避しつつ借金問題を解決するためにはどうすればよいのかについて、わかりやすく解説します。
個人間の借金でも差し押さえされる?
個人間の借金でも、貸主が差し押さえをすることはよくあります。
貸主が個人であっても貸金業者であっても、お金の貸し借りをすると「金銭消費貸借契約」が成立します。たとえ借用書を書いていなくても、貸し借りをした時点で契約が成立し、法律上の「債権者」と「債務者」という関係となるのです。
返済できない場合に実際に差し押さえが行われるかどうかは債権者の意向次第ですが、個人の債権者は貸金業者よりも厳しく差し押さえをしてくることがあります。
貸金業者の場合はビジネスとしてお金を貸していることから、ある程度は回収できないリスクも計算に入れています。回収できなくても損金処理をすることで、会計上のリスクを軽減できます。そのため、差し押さえをすれば回収できる見込みがある場合にのみ、定型的な手順で差し押さえをするケースが一般的です。
それに対して、個人の債権者は貸金を回収できなければ多大な経済的損失を被る上に、信頼を裏切られたという被害者感情も持ちやすいものです。そのため、借主が返済しない場合、差し押さえられるものは何でも差し押さえてくるケースもあります。
こういった理由で、個人間の借金では差し押さえが債務者の生活に深刻なダメージを及ぼす危険性があります。
個人間の借金で差し押さえられるもの
借金の滞納で差し押さえられる財産は、主に債務者の給料と預貯金です。しかし、個人の債権者はそれ以外の財産を狙ってくる可能性が十分にあります。
ここでは、個人間の借金で差し押さえられる可能性があるものをご紹介します。
給料
お勤めの方の場合、差し押さえられる可能性が最も高いのは給料(ボーナスも含みます。)です。給料を差し押さえられると、債権者が勤務先に連絡して直接支払いを受け、債権の回収に充てます。
ただし、後ほどご説明しますが、給料は全額が差し押さえられるわけではありません。
売掛金
自営業者やフリーランスで給与所得がない場合は、取引先に対する売掛金などの債権が差し押さえられます。給料の差し押さえと同様に、債権者が取引先に連絡して直接支払いを受けます。
売掛金については給料と異なり、全額が差し押さえの対象となります。
預貯金
給与所得者でも自営業者でも、預貯金を差し押さえられることもよくあります。預貯金が差し押さえられると、債権者が金融機関に連絡して直接支払いを受けます。
預貯金も給料とは異なり、全額が差し押さえの対象となります。
自動車
債務者名義の自動車も差し押さえの対象となります。
貸金業者の場合、自動車を差し押さえることはほとんどありません。なぜなら、自動車を差し押さえるためには1台につき10万円の予納金がかかるため、費用対効果の観点から差し押さえは得策ではないからです。
しかし、個人の債権者は何としても債権を回収するため、あるいは腹いせなどの目的で差し押さえをする可能性があります。自動車が差し押さえられると、強制的に売却され、代金が債権回収に充てられます。
生命保険
解約返戻金がある生命保険も、差し押さえの対象となります。
生命保険が差し押さえられると、原則として強制的に解約され、解約返戻金は債権者に支払われます。
株式
株式などの有価証券も、差し押さえの対象となります。
有価証券が差し押さえられると、強制的に売却されて代金を債権者が回収することもあれば、裁判所の譲渡命令によって債権者がその有価証券を譲り受けることもあります。
退職金
退職金も差し押さえの対象となります。まだ退職していない場合でも、就業規則などで退職金の支給が定められている場合には差し押さえが可能であることに注意が必要です。
退職金が差し押さえられた場合、給料の差し押さえと同様に、債権者が取引先に連絡して直接支払いを受けます。
ただし、給料と同様、全額が差し押さえられるわけではありません。この点については後ほどご説明します。
不動産
債務者名義の自宅などの不動産も差し押さえの対象となります。ただし、60万円以上の予納金がかかるため、借金の滞納で不動産が差し押さえられるケースは稀です。
もし、不動産が差し押さえられた場合は、原則的に競売にかけられ、最終的に退去を命じられます。
宝石・貴金属・骨董品・現金
宝石・貴金属・骨董品といった高価な動産や現金も、差し押さえの対象となります。予納金が3万円~5万円程度かかりますが、個人の債権者は差し押さえてくる可能性が十分にあります。
差し押さえられると強制的に売却され、代金が債権回収に充てられます。
家具・家電
家具・家電も換金価値があるものは、宝石・貴金属・骨董品と同様に差し押さえられる可能性があります。
個人間の借金で差し押さえられないもの
個人の債権者が徹底的に差し押さえをしようと考えても、法律で差し押さえが禁止されている財産は差し押さえることはできません。
差し押さえ禁止財産のうち、主なものを挙げると以下のとおりです。
給料や退職金の全額
給料、ボーナス、退職金については、差し押さえの上限額が法律で定められています。上限額は、手取額の4分の1までです。ただし、手取額が44万円を超える場合には、33万円を差し引いた全額を差し押さえることが可能とされています。
以下の表で、給料の手取額ごとに差し押さえの上限額を例示しましたので、参考になさってください。
給料の手取額 | 差し押さえの上限額 |
---|---|
20万円 | 5万円(手取額の4分の1) |
30万円 | 7万5,000円(手取額の4分の1) |
44万円 | 11万円(手取額の4分の1) |
50万円 | 17万円(33万円を差し引いた全額) |
60万円 | 27万円(33万円を差し引いた全額) |
現金66万円まで
法律上、標準的な世帯に必要な生活費として政令で定められた金額の2ヶ月分は差し押さえ禁止とされています。その金額は、現在のところ66万円です。
年金
国民年金や厚生年金など公的年金の受給権は差し押さえが禁止されています。企業年金や民間の保険会社が提供する個人年金でも、確定給付型や確定拠出型のものと年金基金は差し押さえ禁止です。
ただし、民間の保険会社が提供する年金保険のうち、解約返戻金があるものは差し押さえの対象となります。
児童手当
児童手当も差し押さえが禁止されています。児童手当は世帯主の口座に振り込まれますが、世帯主が借金を滞納しても、差し押さえられることはありません。
生活保護
生活保護の受給権も差し押さえ禁止です。むしろ、保護費を借金の返済に充てると、生活保護が打ち切られる可能性があることに注意が必要です。
生活に必要不可欠な衣服、寝具、家具など
生活に必要不可欠な衣服、寝具、家具、台所用具、畳、建具も差し押さえ禁止です。つまり、債権者が徹底的に差し押さえを行ったとしても、債務者が身ぐるみ剥がされるということはありません。
1ヶ月分の食料、燃料
債務者の食料や燃料が差し押さえられるケースはそもそもほとんどありませんが、1ヶ月分の食料、燃料は差し押さえ禁止とされています。
このように、たとえ差し押さえが行われたとしても、債務者の最低限の生活は守られているのです。
仕事に必要不可欠な道具等
仕事に必要不可欠な道具等も差し押さえ禁止なので、差し押さえを受けたことによって仕事ができなくなるということも基本的にはありません。
差し押さえが可能な財産が何もないときはどうなる?
以上のように、債務者の生活や仕事に必要不可欠な財産は差し押さえが禁止されているため、実際には差し押さえ可能な財産を債務者が何も持っていないということもよくあります。
ただし、その場合でも安心はできません。この後にご説明しますが、債権者が所定の手続きをとれば、その後の10年間はいつでも差し押さえが可能な状態となります。
その間に、例えば以下のような事情で財産が生じた場合には、差し押さえを受ける可能性があります。
- 就職して給料を受け取るようになった
- 身内の方が亡くなり遺産を相続した
- 親族から援助を受けて預貯金ができた
忘れたころに差し押さえを受ける可能性は十分にあるので、借金問題は根本的に解決しておくことが重要です。
個人間の借金で差し押さえを受ける3つのケース
個人間の借金を返済できないからといって、すぐに差し押さえを受けるとは限りません。債権者が差し押さえをするためには「債務名義」という、債権・債務の存在と範囲を公的に証明できる文書がなければならないからです。
なお、債務名義が発行されると、10年間は借金が時効にかからないことにも注意しましょう。
債権者が債務名義を取得するのは、以下の3つのケースです。
公正証書を作成した
個人間でお金の貸し借りをする際には、借用書を公正証書で作成することもあるでしょう。このとき、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成していれば、それが債務名義となります。
この場合、公正証書に記載された返済条件を守らなければ、ある日突然に差し押さえを受ける可能性があることに注意しなければなりません。
支払督促をされた
公正証書を作成していない場合、債権者は債務名義を取得するために裁判所の手続きを利用しなければなりません。その手続きの一つとして、支払督促を申し立てられることがあります。
債務者が支払督促に対して異議を申し立てなければ、「仮執行宣言付き支払督促」が発行され、これが債務名義となります。
裁判をされた
債権者は、通常の民事裁判を起こしてくることもあります。民事裁判で債権者が勝訴した場合、債務者が控訴しなければ判決が確定します。この場合、確定した判決書が債務名義となります。
個人間の借金を滞納してから差し押さえを受けるまでの流れ
個人間の借金を滞納してから差し押さえを受けるまでには、以下の流れをたどります。
- 滞納の発生
- 債権者からの催促・取り立て
- 債務名義の取得
- 裁判所へ強制執行の申し立て
- 差し押さえの実行
債権者が催促や取り立てを行うとは限りませんが、ほとんどの場合は差し押さえを行う前に何らかの連絡をしてくるはずです。差し押さえを回避するためには、この段階で適切に対処することが重要となります。
ただし、貸金業者の場合は督促状や催告書などを何度も送ってくるのに対して、個人の債権者は早々に差し押さえ手続きに移る可能性があることに注意が必要です。
特に、公正証書を作成している場合は、いつ差し押さえを受けてもおかしくはありません。公正証書を作成していない場合は、支払督促または民事裁判というステップを踏みます。この段階で適切に対処すれば、まだ差し押さえの回避は間に合います。
債権者が裁判所に強制執行を申し立てた後は、債務者に事前の通知なく差し押さえが実行されてしまいますので、早めの対処が極めて重要です。
個人間の借金を払えないときに差し押さえを回避する方法
個人間の借金を返済できないときに差し押さえを回避するための具体的な方策は、以下のとおりです。
貸主と交渉する
まずは、貸主と交渉して返済を待ってもらうことです。分割払いや返済期限の延期、場合によっては減額など、状況に応じて返済条件の変更を提案して話し合いましょう。
貸金業者の場合は会社の方針などの縛りがあるため交渉にも限度がありますが、個人間の借金の場合は、誠意をもって交渉すればより柔軟に解決できる可能性があります。
支払督促が届いたら異議申し立てをする
支払督促を申し立てられたら、簡易裁判所から「支払督促」という書類が届きます。その場合は、受け取った日から2週間以内に異議申し立てをしましょう。
異議申し立てに必要な書式は、簡易裁判所から届く封筒に同封されています。異議申し立てをすると通常の民事裁判の手続きに移行しますので、以下のように和解を目指して対応していくことです。
裁判では和解を目指す
民事裁判を起こされた場合でも和解協議が可能なので、分割払いでの和解を目指しましょう。
そのためには、答弁書に希望の和解案を記載して事前に提出した上で、裁判期日に出頭することです。答弁書の書式は裁判所から届く封筒に同封されています。
和解が成立するかどうかは債権者の意向次第ですが、裁判所もできる限り債権者に対して和解に応じるように促してくれるので、和解で解決できる可能性は十分にあります。
債務整理をする
話し合いで解決できない場合でも、借金問題は債務整理で解決できます。債務整理には、主に任意整理・個人再生・自己破産の3種類があります。
このうち、個人再生と自己破産は、裁判所での手続きにより借金の大幅減額または全額免除が認められる制度です。それだけに、法的には借金問題が解決されても、個人の債権者は納得しないことがあります。
債権者との個人的な人間関係を維持するためには、減免された借金を手続き後に少しずつでも払っていく方向で話し合うのもよいでしょう。個人再生や自己破産で免責された借金は「自然債務」となり、債務者が希望するのであれば任意に支払っていくこともできます。
ただし、あくまでも法的な返済義務は消滅していますので、支払っていくかどうかは債権者との関係性に応じて慎重に検討しましょう。
個人間の借金による差し押さえに関するよくある質問
個人間の借金による差し押さえについては、他にもさまざまな疑問があることでしょう。ここで、よくある質問についてまとめてお答えしていきます。
家族の私物も差し押さえられる?
差し押さえの対象となるのは債務者の個人名義の財産のみなので、家族の私物が差し押さえられることはありません。
ただし、家族と共有名義の財産は差し押さえられる可能性があります。また、家族が連帯保証人になっている場合には、その人名義の財産が差し押さえの対象となることにご注意ください。
借用書がなければ差し押さえられることはない?
借用書がなくても差し押さえを受けることはあります。なぜなら、金銭消費貸借契約は口約束でも成立するからです。
とはいえ、差し押さえを行うためには、債権・債務の存在を債権者が立証しなければなりません。債権者と交渉する際に、どのような証拠があるのかも探りつつ、できる限り穏便な解決を図った方がよいでしょう。
相手に財産を知られていなければ差し押さえは受けない?
債権者が財産調査の手続きをとれば、主立った財産は判明してしまいます。債権者は、裁判所を介して以下の手続きをとることが可能です。
- 財産開示手続き
- 第三者からの情報取得手続き
相手に財産を知られていないからといって安心していると、突然に差し押さえを受ける可能性があるので注意が必要です。
差し押さえ前に通知はある?
差し押さえ前に債権者や裁判所から通知が来ることはありません。差し押さえが実行されると、裁判所から突然「差押命令」という書類が届きます。
ただし、これまでご説明してきたように、差し押さえの前には債権者からの催促や裁判手続きなど、予兆が何度もあります。早めに対処することで差し押さえを回避することが可能です。
差し押さえは家に来る?
家や家に置いてある自動車、家の中にある動産などが差し押さえられたときは、裁判所の執行官などが家に来ることがあります。しかし、それ以外のものが差し押さえられた場合は、家には「差押命令」の書類が届くだけです。
ただし、給料を差し押さえられた場合には勤務先にも「差押命令」が届くので、職場の人に借金のことを知られてしまいます。
個人間の借金トラブルの解決を弁護士・司法書士に依頼するメリット
個人間の借金でトラブルになったら、早めに弁護士または司法書士に解決を依頼することが得策です。
弁護士・司法書士という法律の専門家の力を借りることで、以下のメリットが得られます。
- 債権者との交渉を任せられる
- 支払督促に対する異議申し立ての手続きを代行してもらえる
- 民事裁判に出頭して和解協議をしてくれる
- 交渉がまとまらない場合も最適な解決方法を提案してもらえる
- 債務整理が必要な場合も手続きを代行してもらえる
債権者との人間関係を維持するためにも、返済できない借金を放置するのではなく、適切な方法で解決を図りましょう。
まとめ
個人間の借金でも、滞納を放置すると差し押さえを覚悟しなければなりません。早めに対処すれば差し押さえを回避することは可能ですが、適切に対処するためには専門的な知識や交渉力などが要求されます。
対応を誤ると実際に差し押さえを受ける恐れがあるだけでなく、債権者とのトラブルが深刻化する恐れもあります。
困ったときは一人で抱え込まず、弁護士または司法書士に相談することを強くおすすめします。法律の専門家の力を借りて、借金問題を適切に解決しましょう。
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