- 口約束の借金にも返済義務がある
- 時効が成立している場合など返済を拒否できるケースもある
- 意見が対立したときは貸主が返済義務を立証しなければならない
- 貸主からの違法な取り立てに屈してはいけない
借用書を作成せずに口約束だけで借金をすると、貸主から返済を迫られたときに、返済義務の有無や返済額、返済期限などについて、意見が対立することになりがちです。
お金の問題で当事者同士が感情的に言い争うとトラブルがエスカレートし、深刻な問題に発展することにもなりかねません。適切にトラブルを解決するためには、借金問題に関する法律上のルールを正しく知っておくことが大切です。
この記事では、口約束の借金について返済義務の有無、返済期限などについてご説明した上で、返済を迫られたときの対処法と注意点についてわかりやすく解説します。
口約束の借金にも返済義務はある?
口約束の借金にも、法律上の返済義務があります。なぜなら、契約は一部の例外を除いて、口約束でも成立するというのが法律上のルールだからです。
お金を貸し借りすることを「金銭消費貸借契約」といいますが、民法第587条では、後に同額を返済する約束のもとに貸主からお金を受け取った時点で、金銭消費貸借契約が成立するものと定められています。
この規定では、「書面で契約しなければならない」などと定められてはいませんので、口約束でも金銭消費貸借契約が成立することは明らかです。
借用書や契約書は証拠の一つに過ぎませんので、他の資料や人の供述で契約の成立を立証できる場合は、借用書や契約書がなくても、貸主が裁判を起こすことがあります。
以上のルールは、当然ながら個人間融資にも適用されます。
口約束の借金はいつまでに返済すればよい?
返済義務があるとしても、返済期限をめぐって意見が対立するケースは多いです。ここでは、口約束の借金を、いつまでに返済すればよいのかについてご説明します。
返済期限の取り決めがない場合
個人間で、口約束でお金を貸し借りする場合は、返済期限を特に決めないことも多いでしょう。
返済期限の取り決めがない場合、貸主はいつでも返済の請求ができますが、その際には「相当の期間」を定めなければなりません。「相当の期間」とは、一般的に1週間程度と考えられています。
貸主から「今すぐ返せ」と言われた場合でも、「相当の期間」は返済を猶予されますので、請求された日から1週間後が返済期限となります。
貸主が1週間より長い期間を定めて請求した場合は、その期間の最終日が返済期限となります。
返済期限の取り決め(一括払い)がある場合
返済期限を具体的に取り決めて、その期限までに一括払いで返済する約束をしていた場合は、当然ながら、そのとおりに返済しなければなりません。
取り決めた返済期限を過ぎても返済しなければ、遅延損害金を支払う必要が生じることもあります。
分割払いの取り決めがある場合
分割払いの取り決めがある場合も、そのとおりに返済しなければなりません。
なお、分割払いのケースでは、「○回以上、滞納すると期限の利益を喪失する」との取り決めをしている場合に滞納を続けると、残額を一括してただちに支払う義務が生じることがあります。
「期限の利益」とは、返済期限が来るまでは返済しなくてよいという、債務者にとっての利益のことです。滞納の回数や期間が契約で定めた条件に到達すると、期限の利益を喪失してしまい、その後は分割払いが認められなくなるのです。
期限の利益喪失に関する取り決めをしていない場合は、滞納を続けても一括返済を請求されることはありません。ただし、滞納した分については、遅延損害金を請求される可能性があります。
口約束の借金で返済を拒否できるケース
貸主から返済を迫られても、以下のケースでは返済を拒否できます。
贈与に該当する場合
相手方から「返さなくてよい」と言われてお金を受け取った場合は、贈与に該当しますので、返済義務はありません。
「援助してあげる」と言われてお金を受け取った場合や、プレゼントとして金品を受け取った場合なども、贈与に該当します。
一方、次のようなケースでは、「返す」という約束のもとにお金を受け取っていますので「金銭消費貸借契約」に該当し、返済義務があることにご注意ください。
- 「返済はいつでもいい」と言われた
- 「返せるときに返してほしい」と言われた
- 「出世払いにする」と言われた
出世払いの借金については、「出世したとき(返済できる目処が立ったとき)」、または「出世できないことが明らかになったとき(返済できる目処が立たないことが確実になったとき)」に、返済期限が到来します。
時効が成立している場合
借りたお金であっても、消滅時効が成立している場合は、返済する必要がありません。
個人間の借金における時効期間は、民法が改正されたことから、以下のように借りた時期によって異なります。
- 2020年3月31日以前に借りた場合…10年
- 2020年4月1日以降に借りた場合…5年
時効期間の起算点(時効の進行がスタートする日)は、以下のとおりです。
- 返済期限の定めがなく、「今すぐ返せ」と言われた場合…請求された日の1週間後の日
- 一括払いで返済期限の定めがある場合…返済期限の最終日
- 分割払いなどで借金の一部を返済している場合…最後に返済した日
ただし、貸主から裁判を起こされたり、借主が債務を承認したりすれば、その時点で時効が更新されます。それまで進行していた時効期間はリセットされ、新たにゼロから時効が進行し始めるのです。
債務の承認とは、借主側から借金の返済猶予や減額を求めたり、一部を返済したりするなど、債務を負っていることを認める言動を指します。
また、貸主から催告を受けたときは、そのときから6ヶ月間だけ時効の完成が猶予されます。催告とは、裁判外で債務の弁済を請求する言動のことを指します。
時効期間が経過し、その間に時効の更新や完成猶予に該当する事実がなければ、借金の消滅時効が成立しています。その場合には、時効援用をしましょう。
時効援用とは、借主から貸主に対して、時効成立を理由として、借金を返済しない旨の意思表示をすることです。
口頭でも時効援用はできますが、後日のトラブルを防止するためには証拠を残しておくことが重要です。そのため、「消滅時効援用通知書」を作成し、内容証明郵便で送付するのが一般的です。
契約内容が公序良俗に反する場合
契約内容が公序良俗に反する場合は、民法第90条に基づき契約無効となります。
その場合、受け取ったお金は不法原因給付に該当するため、民法第708条に基づき、貸主には法律上の返還請求権が認められません。そのため、返済を迫られても応じる義務はないのです。
例えば、次のようなケースでは契約内容が公序良俗に反し、返済しなくてよい可能性が高いといえます。
- 愛人関係を結ぶため、あるいは継続する見返りとしてお金を貸してくれた
- パパ活やひととき融資などで肉体関係を持つことと引き換えにお金を貸してくれた
- 犯罪行為を手伝うことの見返りとしてお金を貸してくれた
貸主から返済を迫られたときの対処法
口約束の借金で貸主から返済を迫られたときは、以下の手順で対処していきましょう。
返済義務と返済期限を確認する
まずは、本記事の解説をご参照いただき、返済義務の有無を確認してください。
返済期限がある場合には、返済期限を確認することも必要です。
個人間融資では、貸主が「お金が必要になったので、すぐに返してほしい」と迫ってくることも多いですが、法律上の返済期限が到来するまでは、返済する必要がありません。
返済義務がない場合は支払いを拒否する
返済義務がない場合には、支払いを拒否しましょう。任意に支払う分には問題ありませんが、支払いが苦しい場合や支払いたくない場合には、毅然とした態度で支払いを拒否することです。
ただし、通常は貸主に対して法的な理由を説明し、交渉する必要があります。当事者同士で話し合うと感情的な対立がエスカレートすることも多いですが、なるべく冷静に話し合うことが重要です。
当事者だけで話し合うことが難しい場合は、弁護士または司法書士を間に入れて話し合った方がよいでしょう。
返済義務がある場合は支払い方法を交渉する
返済義務がある場合には、取り決めたとおりに支払う必要があります。それが難しい場合には、一括払いから分割払いへの変更や、返済期限の延長、借金の減額などについて交渉する必要があるでしょう。
借主側の希望を最大限に受け入れてもらうためには、貸主に対して正直に事情を伝えて、誠実に話し合うことが重要です。
交渉が進まない場合には、弁護士または司法書士に依頼すると、豊富な経験に基づく交渉力を活用して、有利な結果に導いてもらえる可能性が高まります。
返済できない場合は債務整理を検討する
返済義務がある場合で、貸主が交渉に応じない場合や、到底返済しきれないほどの借金を抱えている場合には、債務整理を検討した方がよいでしょう。
債務整理とは、返済しきれない借金を適法な手段で減額または免除してもらうことが可能な制度のことであり、主に次の3種類の手続きがあります。
- 任意整理…債権者と直接交渉することにより、利息をカットしたり返済期限を延長したりして、返済の負担を軽減させる手続き
- 個人再生…裁判所の手続きを利用して借金総額を大幅に減額し、減額後の借金を3~5年の分割で返済する手続き
- 自己破産…裁判所の手続きを利用して借金の返済義務を全面的に免除してもらえる手続き
個人再生と自己破産では、一定の条件を満たせば貸主の意向にかかわらず、強制的に借金を減免してもらうことが可能です。
どの手続きが適しているかはケースごとに異なりますので、弁護士または司法書士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
口約束の借金でトラブルになったときの注意点
口約束の借金に関するトラブルを適切に解決するためには、以下の点に注意しましょう。
返済義務の立証責任は貸主にある
法律上、返済義務の有無について争いがあるときは、貸主側が「借主に返済義務があること」を立証しなければならないこととされています。
返済期限についても同様で、借主が主張する返済期限よりも早期の返済を請求するためには、貸主側がその根拠を立証しなければなりません。
口約束の借金では、借用書や契約書といった強力な証拠がないことから、契約内容について「言った・言わない」のトラブルが生じがちです。
しかし、貸主の主張を裏づける証拠がない場合には、裁判を起こされたとしても敗訴するリスクは低いので、貸主からの理不尽な請求に応じる必要はありません。
利息や遅延損害金の支払い義務は契約内容による
契約時(口約束でお金を借りたとき)に利息の取り決めをしていなければ、利息の支払い義務はありません。したがって、貸主が「利息を付けて返してほしい」などと言ってきても、取り決めがなければ応じる必要はありません。
遅延損害金については、取り決めがなくても、貸主から請求された場合には法定利率に従って支払う必要があります。法定利率は民法第404条で定められており、具体的には以下のとおりです。
- 2020年3月31日までに借りた場合…年5%
- 2020年4月1日以降に借りた場合…年3%
契約時に、これを超える利率で遅延損害金の取り決めをしていた場合には、その利率で支払う必要があります。ただし、個人間の借金における遅延損害金の利率は、出資法第5条1項で年109.5%までと定められています。これを超える部分は、契約無効ですので支払う必要はありません。
違法な取り立てに対しては毅然とした対応をすべき
貸主が感情的になった場合や、ネットを介するなどして悪質な貸主から借りた場合などでは、強行的な取り立てを受けることも多いです。
個人間の借金には貸金業法で定められている取り立てのルールは適用されませんが、以下のような取り立ては民法や刑法などに抵触し、違法となる可能性が高いです。
- 暴力や強迫を伴う取り立て
- 自宅に無断で上がり込んで取り立てる
- 帰ってほしいと告げられても居座って取り立てを続ける
- 職場に取り立てに来て業務の邪魔をする
- 「ネットで個人情報を晒すぞ」などと告げて精神的に追い込む
たとえ返済義務があり、返済期限が到来している場合でも、このような違法な取り立てに屈する必要はありません。毅然とした態度で、取り立ての中止を求めるべきです。
貸主が違法な取り立てを止めない場合には、早めに警察や弁護士・司法書士にご相談の上、法的な対処を検討した方がよいでしょう。
口約束の借金トラブルの解決を弁護士・司法書士に依頼するメリット
口約束の借金トラブルに直面したときは、早めに弁護士・司法書士のサポートを受けることが最も有効な解決方法となります。弁護士・司法書士に対応を依頼することで、以下のメリットが得られます。
- 返済義務の有無や返済期限に関して具体的なアドバイスが受けられる
- 自分の主張を相手に認めてもらうために、どのような証拠が必要かがわかる
- 有力な証拠の収集をサポートしてもらえる
- 貸主との交渉を全面的に代行してもらえる
- 違法な取り立てを止めるように警告してもらえる
- 違法な取り立てが続く場合は、刑事告訴や民事裁判などの法的措置も任せられる
- 必要に応じて債務整理の複雑な手続きも一任できる
法律の専門家によるサポートを受けることにより、納得のいく形で借金トラブルを解決できることでしょう。
まとめ
口約束の借金では、貸主・借主の認識が異なっていたり、あるいは貸主が勝手な意向で返済を迫ってきたりして、トラブルに発展することが多いです。
そんなときは、感情的に対立するのではなく、法律に従って解決を図ることが大切です。
貸主から返済を迫られて納得できない場合や、返済が苦しい場合には、弁護士・司法書士の力を借りて、適切に解決しましょう。

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